第69話 高宮 圭吾の場合
七海は、亡くなった高宮 沙良のお母様から、連絡をもらっていた。(注)
沙良の兄、8歳の高宮 圭吾が、七海と蓮に会いたがっているとのことだった。圭吾は、沙良が亡くなったことを自分の責任だと考えて、罪悪感をみせているのだという。
圭吾は、児童精神科の専門医にも診てもらっている。ただ、薬の処方が必要なほどではなく、時間をかけて、様子をみながら、ゆっくりということだった。
——こわい。圭吾くんに対して、自分にできることなんて、ない。会いたくない
七海は、とにかく、素人ながらに、何も知らないで圭吾に会うことはできないと考えた。七海は、「残された子どもの罪悪感」について、論文検索をする。
七海「残された子ども(5〜11 歳)は、親が悲しんでいる姿をみて、『親がこんなに悲しいなら、自分がもっと何かすればよかった』と感じることがある。亡くなった兄弟姉妹との比較から、『妹はいつも良い子だった』、『妹は、自分より我慢していた』など、自己評価が低くなる可能性がある(※1)」
七海「死や病気のことを子どもが十分知らされていなかったり、死が起こる原因・過程を誤解していたりすると、『もしあのとき知っていたら』、『違うことができたら』という考えが生じる可能性が高まる。発達段階が低い子どもではこの傾向が強い(※2)」
七海は、この論文検索の過程で、偶然、「親を亡くした子ども(主に6〜18歳)」の悲しみを癒すプログラムに関する論文をみつけた。
七海「親のケアが、子どもが持つ『自分が親を助けてあげられなかった』といった罪悪感を軽減する(※3)」
——親のケア。お母さんは、治療費の返済で、必死で働く必要があった。お母さんには、私のケアをしている余裕なんて、全然、なかった。むしろ私も働いて、お母さんのこと、もっと助けるべきだった。
——私は、お父さんのこと、助けられなかった。お父さんのこと、わかってあげられなかった。私がお父さんの代わりに死んでいたら、お母さんや美香が、あんな大変な思いをしなくてすんだのに。
七海の罪悪感の根底にあるもの。
思春期の記憶は、脳に刻まれやすい。七海の場合は、夢咲と違って、それが初恋の相手ではないだけ。七海は、父の死に対する責任、父のことを理解してあげられなかった、その罪悪感を、脳に刻んでいた。
——蓮くんを壊したから、だけじゃない。私が幸せになってはいけないのは、お父さんのこと、わかってあげられなかったから。お父さんが築いた白嶺の理念を、全然、わかってなかったから
——自分が学ぶべきことは、自分で決める。
——白いチューリップを求めていたのは、私なんだ。
【筆者注】あくまでもフィクションです。私は、医療の素人です。ここの記述には、根本的な間違いが含まれる可能性があります。この記述をもとにして、意思決定をしないでください。あくまでも、フィクションです。ただ、ここで参照した論文は、実在する論文です。
お忙しい中、第69話までお読みいただけたこと、本当にありがたいです。
少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。
さて。
七海が抱えていた罪悪感は、蓮を壊したからだけではありませんでした。父親の死に対する自分の在り方が、どうしても許せなかったのです。それに気づいたからといって、罪悪感が消えるわけではありません。しかし、七海にとってこれは、重要な気づきとなっていきます。
引き続き、よろしくお願い致します。
参考文献;
1. Chan WCH, Leung GSKM, Leung MMM, Lin MLK, Yu CTK, Wu JKW. Facing the loss of siblings in childhood: Interactions and dynamics between bereaved siblings and their parents. Journal of Pediatric Nursing, 2022; Vol. 66: e1-e8.
2. Sood AB, Razdan A, Weller EB, Weller RA. Children’s reactions to parental and sibling death. Curr Psychiatry Rep. 2006;8(2):115-120.
3. Bergman A-S, Axberg U, Hanson E. When a parent dies – a systematic review of the effects of support programs for parentally bereaved children and their caregivers. BMC Palliative Care. 2017;16:39.




