表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/84

第4話 夕方の商店街と青い目

 ある日、放課後。赤点を取った生徒たちの補習日。


 赤点のある夢咲(ゆめか)美月(みつき)は、教室でグダグダしていた。


 ふたりは、いつもなら、商店街が終わるところまで七海と一緒に下校する。


 仲良しだから。同時に、七海に声をかけてくるチャラ男たちから、七海を守る意味も大きい。


 しかし今日は、補習のせいで、七海ひとりの下校になってしまう。


 七海は、夢咲と美月を待っていることができない。妹の、保育園のお迎えの時間がせまっていたからだ。


 時間に遅れれば、延長料金が発生する。七海の家計には余裕がないので、延長料金は払いたくない。


 七海は、ペンケースと水筒をしまい、(かばん)のジッパーを確かめて、廊下を小走りに進んでいく。


夢咲「七海、大丈夫かな?」


美月「アホの夢咲(ゆめか)はともかく。まあまあ上位の私まで赤点あるって、うちのテスト、どんだけ難しいのよ」



 商店街は、夕方のにぎわい。


 焼き鳥屋の煙、たこ焼きのソースのにおい。閉店セールのスピーカー、自転車のベル、子どもの笑い声。


 七海は、みた目だけはギャル。なのに、商店街をコソコソと小走りに”逃げて”いく。


チャラ男A「ねえ、ちょっと待ってよ」


 髪を明るく染めた、年上っぽい3人組が七海に声をかけた。


 派手目のカジュアルな服に、ジャラジャラと多めのアクセ。口は笑っているけれど、目は笑っていない。


チャラ男B「一人? どこ行くの」

チャラ男A「時間あるでしょ」

チャラ男C「かわいいじゃん、話そうよ」


 七海は(かばん)を胸に寄せ、半歩さがった。


——まずい、早く逃げないと


 七海は短く、ギャルっぽい姿には似つかわしくない小声で


七海「急いでます……」


チャラ男B「ちょっとくらい、いいじゃん」

チャラ男A「とにかく、LINE交換しよ」

チャラ男C「写真1枚だけ。ね?」


 七海はさらに半歩さがる。


 身体がこわばり、指先は冷たくなる。チャラ男3人は、距離をつめる。道路の向こうに人の波はある。でも、誰も介入してこない。


 暖かく響いていた夕方の音が、遠くなる。


御影「彼女、嫌がってる。やめろ」


 低い、通る声がした。


 黒縁メガネの長身、御影がいた。


 もう、白嶺(しらみね)の制服ではなく、北高の制服を着ている。表情は、相変わらず前髪でよくみえない。


チャラ男A「はぁ? なにお前?」

チャラ男C「彼氏?」


御影「違うけど」


 御影の声は落ち着いていて、静かだ。それが返って"ほんとうの力"を(おさ)えているのが伝わる。


 チャラ男のひとりが舌打ちをし、御影の胸ぐらをつかみ


チャラ男B「調子、乗るなよ」


 ドス、と鈍い音。肩で押され、御影の黒縁メガネがズレた。


 拳が飛ぶ。御影の(ほほ)に1発。ズレていた黒縁メガネが飛ばされた。


 それでも御影は、やり返さない。ただ、ゆっくりと顔を上げた。それから相手の目をまっすぐにみる。


 沈黙。


 御影の視線は、少しも動かない。チャラ男の身体が、自然と御影の正面を避ける。別のチャラ男も、肩をすくめた。


チャラ男A「……行こ」

チャラ男C「つまんね」


 3人は足早に去っていった。


 夕方の音が、急に戻ってくる。


 七海の(かばん)が、地面に落ちている。御影はそれを拾い、優しくほこりを手で(ぬぐ)って七海に差し出した。


 七海は御影に近づこうとして、足を止める。やはり、体が勝手に距離をとってしまう。まだ、こわい。それでも、殴られた御影の(ほほ)が心配だ。


七海「ありがとう。殴られたところ、大丈夫?」


 御影は軽くうなずく。七海の目線は、赤くなった御影の(ほほ)から、御影の目に吸い込まれた。


七海「……青い」


 透き通った水に、空の色を一滴たらしたみたいな薄い青。その中心には、深い海の色があった。


 光を受けるたび、瞳の色がすこしだけゆれる。


御影「あ、さっきので、カラコン飛んだか」


 七海は、視線を落とす。


——こわいから、じゃない


御影「目の色のこと、内緒にしておいて」


 七海は「こくん」とうなずく。


——そうだ、もう時間がない


御影「行って。大丈夫だから」


 御影が短く言う。優しい声。


 七海は「うん」とだけ答えて、駆け出した。


 商店街のアーケード、信号が点滅する横断歩道を七海が走り抜ける。


——走っているから? なんだか息ができない


 角を曲がる直前、七海はたまらず振り返った。


 御影は、落ちたメガネを拾っていた。


 長い前髪が、風で揺れる。あの青い目は、ここからでは、もうみえない。


 御影が手にしたメガネのレンズが、夕日を反射して一瞬だけ光った。



もう、第4話まで、お読みいただきました。なんと光栄なことでしょう。ありがとうございます。


少しでも、読めるところがあったなら、是非ともリアクションや☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


七海と御影の間に、青い目の秘密が共有されました。この共有が、後に登場する2本目の論文と、深く関わってきます。


引き続き、よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
御影くん、何か事情を知っている感じ…でしょうか? かっこいいですね…!!好きだなぁ…!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ