第4話 夕方の商店街と青い目
ある日の放課後。補習日。
赤点のある夢咲と美月は、教室でグダグダしていた。
いつもなら、ふたりは七海と一緒に下校する。
七海に声をかけてくる”チャラ男”たちから、七海を守るため。
しかし今日は、補習のせいで、七海ひとりでの下校となる。
七海は、ふたりの補習が終わるのを待っていられない。保育園のお迎えの時間があるから。
時間に遅れれば、延長料金が発生する。七海の家計には余裕がないので、延長料金は払いたくない。
七海「じゃあ。補習、がんばって」
廊下を小走りに進んでいく。
夢咲「七海、大丈夫かな?」
美月「アホの夢咲はともかく。まあまあ上位の私まで補習あるって、うちのテスト、どんだけ難しいのよ」
◇
商店街は、夕方のにぎわい。
焼き鳥屋の煙、たこ焼きのソースのにおい。閉店セールのスピーカー、自転車のベル、子どもの笑い声。
七海は、そんな商店街をコソコソと小走りに"逃げて"いく。
チャラ男A「ねえ、ちょっと待ってよ」
髪を明るく染めた3人組が、七海に声をかけた。口は笑っているけれど、目は笑っていない。
チャラ男B「一人? どこ行くの」
チャラ男A「時間あるでしょ」
チャラ男C「かわいいじゃん、話そうよ」
鞄を胸に寄せ、七海は半歩さがった。
——まずい、早く逃げないと
短く、小声で
七海「急いでます……」
チャラ男B「ちょっとくらい、いいじゃん」
チャラ男A「とにかく、LINE交換しよ」
チャラ男C「写真1枚だけ。ね?」
七海は、さらに半歩さがる。身体がこわばり、指先は冷たくなる。
男3人が距離をつめる。周囲に人はいる。でも、誰も介入してこない。
暖かく響いていた夕方の音が、遠くなる。そのとき
御影「彼女、嫌がってるだろ」
低い、静かだが、通る声。御影がいた。
チャラ男A「はぁ? なにお前?」
チャラ男C「彼氏?」
御影「違うけど」
御影は、落ち着いている。
チャラ男のひとりが舌打ちをし、御影の胸ぐらをつかむ
チャラ男B「調子、乗るなよ」
ドス、と鈍い音。肩で押され、黒縁メガネがズレた。
拳が飛ぶ。頬に1発。それで御影のメガネが飛ばされた。
それでも御影は、やり返さない。ゆっくりと顔を上げる。
沈黙。
御影の目線は、少しもブレない。チャラ男の身体が、自然と御影の正面を避ける。別のチャラ男も、肩をすくめた。
チャラ男A「……行こ」
チャラ男C「つまんね」
3人は去っていった。
夕方の音が、急に戻ってくる。
七海の鞄が、地面に落ちていた。御影はそれを拾い、汚れを手で拭って差し出した。
七海は御影に近づこうとして、足を止める。体が勝手に距離をとってしまう。
七海「ありがとう。殴られたところ、大丈夫?」
御影は軽くうなずく。
七海の目線が、赤くなった御影の頬から、目に吸い込まれた。
七海「……青い」
透き通った水に、空の色を一滴たらしたみたいな薄い青。その中心には、深い海の色があった。
光を受けるたび、その青い瞳の色が微妙に変化する。
御影「あ、さっきので、カラコン飛んだか」
七海は、視線を落とす。
——こわいから、じゃない
御影「目の色のこと、内緒にしておいて」
七海は「こくん」とうなずく。
——そうだ、もう時間がない
御影「行って。大丈夫だから」
優しい声。
七海は「うん」とだけ答えて、駆け出した。
信号の点滅する横断歩道を、七海が走り抜ける。
——走っているから? なんだか息ができない
角を曲がる直前、七海はたまらず振り返った。
御影は、落ちたメガネを拾っていた。
あの青い目は、ここからでは、もうみえない。
御影が手にしたメガネのレンズが、夕日を反射して一瞬だけ光った。
もう、第4話まで、お読みいただきました。なんと光栄なことでしょう。ありがとうございます。
少しでも、読めるところがあったなら、是非ともリアクションや☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。
さて。
七海と御影の間に、青い目の秘密が共有されました。この共有が、後に登場する2本目の論文と、深く関わってきます。
引き続き、よろしくお願い致します。




