表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/84

第30話 はじめてのプレゼント

 美月の家での家庭教師バイトの帰り道。


 御影、七海と美香は、美香を中心とし、手をつないで歩いている。


 七海が足をとめ、鞄から論文を取り出し、御影に手渡す。


七海「自習のとき、図書室で調べてプリントアウトしてきた」


御影「なに?」


七海「(れん)くんの……歌が下手な件について」


御影「……」


 御影は、少しムスッとした。


 ちょうど公園の近くだったので、公園のベンチに腰掛ける。


七海「違うの。そうじゃなくて」


御影「なに」


七海「蓮くんの歌が下手ってわかって、みんなの好感度が上がった」


御影「そうなの?」


七海「私も、蓮くんに対する親しみが増した」


御影「それ、なんで? 知りたい」


七海「だから、この論文なの。私からのプレゼント。あ、はじめてのプレゼントだね」


 御影は、手渡された論文のアブストラクトを、その場で読んだ。美香も、読めるはずのない英語の論文を御影から奪って「ふんふん」と読めているフリをする。


御影「有能者+小失敗=好感度↑/平均者+小失敗=好感度↓(※1)」


七海「蓮くんはなんでもできる有能者だと、みんな思ってる」


御影「そんなことないのに」


七海「そういう有能者は、みんなからすると近寄りがたいんだよ」


御影「……」


七海「私だって、そう感じるときあるもん」


御影「俺もまえは、七海に対して近寄りがたいって感じてた。でも、七海の色々なことを知って、七海の弱いところにも触れてそう感じなくなった」


七海「でも蓮くん。普段のあなたには弱いところがみえない。完璧な人。だから歌が下手っていうのは、あなたにとって大きな武器になるの」


御影「何度も下手って言われると、ちょっと(へこ)むけど……」


七海「こっちの論文(※2)も、アブストラクトだけ読んでみて」


 御影は、新たに手渡された論文のアブストラクトを読む。美香は、自分が持っている方の論文ではなく、新しい方の論文を御影から奪おうとしている。


 御影はアブストラクトを読み終わって、論文を美香に渡す。


御影「社会的に距離が遠い相手に弱点が伝わると、その相手の好感度が上がる」


七海「正確には『自分の弱点をユーモアにすると』だけどね。蓮くんの場合は、『あいつ完璧イケメンかと思ったら、歌が下手らしいよ』って伝わって、学校中からの好感度が上がる」


御影「なるほど」


七海「(れん)くんを呼び出した先輩も『おまえ、歌、下手なんだって?』って声をかけてくる」


御影「ありそう……」


七海「そのとき無視とか威嚇するんじゃなくて『残念ポイント、バレちゃいましたか』みたいに笑って切り返すと、先輩も敵じゃなくなる。そんな簡単にはいかないかもだけど」


御影「七海のこと、少しこわくなってきたよ……」


 七海が3本目の論文(※3)を御影に手渡す。また、美香がそちらの論文に手を伸ばした。


 美香と格闘しながら、なんとか御影は、3本目のアブストラクトを読み終えた。


御影「弱点にも限度がある。大きすぎる弱点や失敗は、好感度を下げる。それと、わざとらしく弱点を演出するのもダメ」


七海「そう。だから『歌が下手』くらいの弱点がちょうどいいの。しかも(れん)くんの場合、わざとじゃなくて……」


御影「ほんとうに下手だから……」(しゅん)


七海「ごめん……」


美香「ねえ、帰ろうよー。美香、お腹すいたー」


七海「そうだね、帰ろう」


御影「論文、ありがとう。全文読んで、あとで感想を伝える」


七海「感想とか、いいよ。その時間を"生物のこと考える時間"にして。ガン治療の研究、頑張ってほしい。その方が嬉しい」


 三人は、また歩き出した。


 夕暮れ時の住宅街。幸せな家族の気配が漂っている。


 ほんとうは、みんな苦労してて、それぞれの困難があるのだろう。


 ただ、みんなが幸せであって欲しいと感じる。


七海「誰の人生にも、応援してくれる人が必要だと思う。誰からも好かれるのは、きっと無理。だけど、なにかを成し遂げたいなら、人に好かれる努力はすべきだと思う」


御影「そうだね。ありがとう、七海」



第30話です。ここまでお読みいただいた方であれば、きっと、最後まで読んでいただけるのでしょう。本当に、ありがとうございます。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


今回は「有能者+小失敗=好感度↑/平均者+小失敗=好感度↓」について、簡単に触れただけの回になります。七海と御影の日常みたいなイメージですが、本当は、もっと、イチャイチャしてます。そこら辺は、もっと終盤で、描きます。


引き続き、よろしくお願い致します。


参考文献;

1. Aronson, E., Willerman, B., & Floyd, J. (1966). The effect of a pratfall on increasing interpersonal attractiveness. Psychonomic Science, 4(6), 227–228.

2. Cao, Y., Li, H., Jiang, T., Dang, J., & Hou, Y. (2025). Laughing off cyber spoofing: the role of self-deprecating humor in enhancing celebrities’ interpersonal likeability. BMC Psychology, 13, 501.

3. Helmreich, R. L., Aronson, E., & LeFan, J. (1970). To err is humanizing—sometimes: Effects of self-esteem, competence, and a pratfall on interpersonal attraction. Journal of Personality and Social Psychology, 16(2), 259–264.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ