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第10話 カイオと蓮

 月曜日の朝、ホームルームの前。


 七海は、胸ポケットにある付箋(ふせん)をつまんだ。この付箋には『おせっかい、嬉しかった』と書かれている。


——この付箋を論文につけて、返すんだ


 そのとき御影は、補習のプリントをとじ直していた。


 七海が、後ろを振り返る。下をみながら、御影に論文を差し出した。


七海「これ、ありがとう」


『おせっかい、嬉しかった』と書かれた付箋は、まだ、七海の指に貼りついたまま。


 御影は、論文を受け取らない。


御影「返さなくていいよ。あげる」


 七海は、(まばた)きをひとつする。


七海「ありがとう」


 それだけいって、七海は前を向いた。



 昼休み。


 教室の(すみ)で、夢咲(ゆめか)美月(みつき)が小声で話をしている。


夢咲「今日、カイオ、当てる?」


美月「うん。昼練、ちょうど見学日」


 そこへ、ジャージ姿の巨体が現れた。


 鈴木 カイオ 勇太。明らかに、アジア人とは異なる外見をしている。


カイオ「御影 蓮(みかげ れん)くん、いるかな?」


 カイオは、雑な人間ではない。


 自らをネタにした冗談はよく言うけれど、誰かをイジるようなことはしない。質問は短く、答えは相手のペースに合わせて聞く。


美月「カイオ、大好きー」


カイオ「美月ちゃん。俺も、好きだよ」


夢咲「おまえら、よそでやれ、よそで」


カイオ「で、美月ちゃん。御影くんって、いるかな?」


 美月が目で示した先に、御影がいた。ノートに何かを書き込んでいる。


カイオ「御影くん? ちょっとだけ、時間、いいかな?」


御影「いいけど、なに?」


カイオ「転校生がいるって聞いてね。バスケに興味ないかなと思って」


御影「勧誘?」


カイオ「いきなり勧誘じゃなくてさ。転校生、部活、入りにくいでしょ。軽い気持ちで、見学してもらえないかなって」


御影「ありがとう。見学ならしてみたい」


カイオ「嬉しいよ! もう、ご飯食べた? じゃあ、これから体育館まで一緒しない?」


 "あの御影"が話しかけられている。そして"あの御影"が、しゃべっている。


 クラスのみなが、耳だけで、このやり取りに注目していた。もちろん七海が、このやり取りに、一番、驚いている。



 体育館にて。


 昼の光が、高い窓から帯になって差し込んでいる。


 バスケ部員が、シュート練習をしていた。


カイオ「よかったら、ボール触ってく?」


 気持ちのいい声で話しかける。


カイオ「俺、鈴木 カイオ 勇太って言うんだ。カイオでいいよ」


 御影は一瞬だけカイオをみて、あらためて会釈をする。


御影「こっちも(れん)でいいよ」


カイオ「じゃあ……蓮、ちょっとパス回してみてもいい?」


蓮「……少しだけなら」


 最初のパスは、慎重に。それからパスのテンポが上がる。


 カイオが受ける手の場所を少し変えれば、御影はその変化に合わせて肩を出す角度を変える。


カイオ「やってた?」


蓮「少しだけ。小学生のとき。中学は部活、やってない」


カイオ「いけるじゃん」


 カイオは笑い、ドリブルで御影を左右に振ってからレイアップを決めた。


カイオ「昼だけの幽霊でもいいし、見学メインでもいい。本当は、新人戦に出てもらえたら助かる。メンバー、足りてなくてさ」


御影「俺、バイトしてるから、フルでは無理。でも、考えてみる」


カイオ「本当に? でも、他の部活もみてからでいいからね」


 御影はボールを胸の前で止め、わずかに目を細めた。


 カイオ。自分らしさを隠していない。肌の色も、名前の響きも、まっすぐにそのままだ。


御影「カイオ、また誘ってもらえると嬉しい」


カイオ「もちろんだよ」


御影「気を使わせて、悪いな」


カイオ「全然いいよ。……あ、蓮。ひとつ、許可もらってもいい?」


御影「許可?」


カイオ「蓮が、どんな人かとか、美月(みつき)ちゃんと、美月ちゃんの友だちに伝えていい? バイトしてるとかさ」


御影「もちろん、いいよ。本人が隠そうとしていない事実なら、そういう許可はいらないんじゃない?」


カイオ「特別な人にだけ伝えたいこともあるよね。他の人には内緒にしてもらいたいこととか」


御影「……確かに、そうだね」


カイオ「まあ、初対面の俺が、蓮にとって特別な人のわけないから、気にしなくていいのか」


御影「今日のこととかは、いいよ。内緒にしてもらいたいことがあったら、そう伝える」



 補習のない翌日の、放課後。


 七海は、保育園の門の前で、美香の靴紐(くつひも)を結び直していた。脇で夢咲(ゆめか)が七海の鞄を持ち、美月(みつき)が小声で報告する。


美月「御影、バイトしてるって。あと、小学生のときバスケやってた。中学では部活やってない。口数は多くないけど、攻撃的じゃない。丁寧で無駄のない善人。初日だから、情報はこれくらい」


七海「なんだか、スパイしてるみたい……」


夢咲「御影のこと知りたいんでしょ?」


七海「ちゃんと、本人の口から聞きたい」


美月「あんたが、それできないからスパイしてるんでしょ?」


七海「そうだけど……」


美月「カイオはさ、御影から許可もらってるよ。私たちに、こういう情報、伝えていいって」


七海「そうなの?」


夢咲「だから、こうやって共有される情報はさ、七海にも伝わること、御影、知ってる」


 七海は、短く(うなず)いた。


 御影に、色々と話せる友だちができそうなこと。その話は、七海に伝わってもいいと、御影が思ってくれていること。


——なんで、こんなに嬉しいんだろう?


七海「あっ、論文! もらった論文のこと、私、勝手に夢咲と美月に話しちゃってる! 許可とってない! ど、どうしよう」


美月「なら頑張って、ごめんなさいしようか」


七海「うん……」


——目の色のことだけは、絶対に、内緒



もう、第10話です。ここまで、お読みいただき、ありがとうございます。とても光栄です。嬉しいです。


少しでも、読めるところがあったなら、是非ともリアクションや☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


男性のコミュニケーションは、課題解決の手段として用いられることが多いです。ここでも、2学期に転校してきた御影が、部活に入りにくいという課題について、カイオが手を差し伸べています。男性は、こうした方法で、友だちを作っていく傾向があります。


これに対して女性のコミュニケーションは、相手の感情に共感する形を取ることが多いです。例えば「部活入れてなくて、ちょっと寂しいよね?」「一人なら、一緒にお茶しない?」といった具合です。まあ、あくまでも傾向ですが。


引き続き、よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
カイオさん、すげぇや。下手したら距離を取られかねないのに、いい塩梅に接してるの素直にすごい。
カイオくんすご! 話術スキル高すぎる。゜(゜ノ∀`゜)゜。w
友達とカイオが優秀すぎて感動
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