【番外編】アイシャのレシピ 後編
アイシャの脱ステータス最低値から始まった銀狐乱獲フェスは続き、貯めたスキルポイントでツリーから“呪い人形カーズくん”が解放された時にはその材料に目を疑ったものだ。
すぐ手に入るもので足りないのはキルティング生地のみ。それはやはり素直に街で買い、ストレージに入れておいた。あと今この時に足りないのは……髪の毛。
地這鳥捕獲までのあいだにアイシャ含めて4人の髪の毛を手に入れておいた。そして臓物。その種類は多い方がよくて、詰めたものに類する魔物、獣を退けそれらより低位の存在も退ける。
詰めたのは銀狐と地這鳥の内臓。あとはそのへんの虫やらも合わせてみせる。トイレという理由でハルバを遠ざけ、それでも一緒にとついてくるサヤに阻まれ、見張りと称するマケリにも阻まれ、こっそりと作成出来たのは3度目のトイレ休憩のときで、作成の代償にアイシャには頻尿クイーンの称号も与えられた。
作ってストレージに入れておいた“呪い人形カーズくん”は、出来上がりのファンシーさで誤魔化されてはいるけれど中身が何かわかっているアイシャは、いよいよ野営となったときに効果を試したいものの、テキトーに放置も出来ずに震える手で抱えている。
そんなカーズくんを見て可愛いと寄ってきたマケリに押し付けてひと安心したアイシャは、内臓ミックスに抱きつくマケリに心の中で「えんがちょ」と呟いた。
“呪い人形カーズくん”は名前に反して詰め込んだ髪の毛の持ち主からその危険を遠ざける性質がある。きっとお昼寝士が安全に眠れるための技能だからだろう。
お香に使われる薬草も材料に含むから大抵のものは寄ってこないことが判明した。唯一近づいてきたコカトリスの中身も足してからはなおさらだ。
(アレの匂いがしないのは混ぜた薬草のおかげかな?)
ほのかに香るのは草の匂いで、ぎゅっと抱きしめると草原の爽やかささえ感じる。
(まあ中身のあれの量はそんなに多くなくて良いみたいだから、実質ぬいぐるみ全体の殆どは買ってあった綿と地這鳥の羽毛だから柔らかくて気持ちいいのは間違いないかな)
開けてバラせばアレが出てくるだろうな、とは思うが。
家に帰り着いたアイシャは、気まぐれにマケリにあげる分としてストラップサイズの物を作ってみた。
くまのぬいぐるみといえば子どもが抱えきれないサイズなどと思っていたアイシャだが、そうである必要もないと思い至りサイズ調整したのだが……。
「くっさっ! 何これ生ぐさっ!」
出来上がったのはキルティング生地のあちこちに赤黒いシミが浮かんだ禍々しいもので異臭まで放っている。詰めた綿で形こそ保っているが、握れば生のアレの触感で手には生暖かさが残る。
(ああ、効果を発揮するための内蔵量は変わらないから外側を小さくした分その割合が変わってこうなったのね)
納得して窓を開けて換気しながらぬいぐるみをしばらく見つめたアイシャは、覚えたての物で円を書くタイプのストレージでぬいぐるみの周りを囲んで落とし穴のようにして収納した。
外では軽い異臭騒ぎがあるけど知らんぷりしてやり過ごすアイシャ。外からは爽やかな風が入ってくる。
えらくすんなりとぬいぐるみをマケリに渡したアイシャ。それは材料のせいだったという。
快適な睡眠を求めるお昼寝士の技能はどこまでいくのか。
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