リビングデッド(真)
アイシャの奥から突き上げてくる衝動がある。それは腹の奥からかも知れないし心臓からかも、脳からかも知れない。
「あっ、うんっ! はうっ」
マイムと交わす口づけは舌の奥まで絡み合い、お互いに魔力のそれなのか、はたまた別のものなのか分からない痺れと痙攣を断続的にもたらす。
熱い吐息が逃げ場のない口内で交換される。フラットな胸の突起もいじくり倒されてアイシャは腰が引けてしまいつつマイムを求めてしまう。
(私の奥からっ、何かが──抑えきれない何かがっ! 溢れ出すっ!)
「ああっ!」
「ひゃぁんっ!」
アイシャが声を上げたのと同時にマイムも嬌声を上げて果ててしまった。
「はあっ、はぁ、アイシャちゃんと仲良く──」
その続きは出てこなかった。おおよそマイムの状態とアイシャの状態は傍目に違いはなく、肩で息をしながら全身のどこもかしこもが敏感になったように痙攣してはいるが──
「アイシャちゃん?」
マイムの目には他人の魔力が映る。そのマイムをして目の前の愛おしい彼女がアイシャ本人なのか分からなくなってしまった。それほどに目の前で悶える彼女のそれは、別人のようであったから。
「あ、あ──」
その答えをこの場で今、認識しているのは傍観者で1人愉しんでいた性霊ルミだけである。
この空間には今水の壁は映っていない。外敵とを分断していた壁は確かにまだ外で維持をされてはいるのだが、認識を分断するドームで遮られて感じられなくなっている。そのドームは夜の闇と光を湛えていて、幻想的な閉鎖空間を演出する──アイシャの“プラネタリウム”である。
その空間は地面には反映されない。あくまでもドーム状に囲うだけで、地面は変わらず街のそれなのだが、1ヶ所だけ明らかな変化がある。
「なに、あれ。あれはでも──」
ルミが見ているそれは、地面にぽっかりと空いた穴である。見た目には奥まで見通せない真っ黒な穴は
「これも、ママのストレージ?」
いつもベッドやら何やらを収納しているストレージの扉であり穴。そしてそこには沢山の持ち物、拾得物が入っていて、“それ”もその拾得物のひとつであった。
「んんっ、出るっ! ──あれ? 出たあと?」
ハッと目覚めたアイシャは自分を見つめて呆けているマイムと、他所の一点を見つめて固まっているルミを見て、アイシャはルミの視線の先に目をやる。
ルミは“それ”が爪の先から現れたところから見ている。見ていてもそれが現実とは到底思えない。
ぽっかりと空いた穴のふちに掛かる手は白く、右手左手と掛かり、どこかで見た気がする“水色の頭髪”がせりだしてくる。
「あ、あ……」
その光景にルミは声が出せないでいる。あまりにもあり得なく、あまりにも信じ難い光景。
やがてその艶めく水色は腕をつっぱることで上半身を穴の外に押し上げてみせた。その身体は真っ白な生地に雪の結晶のような模様をあしらった着物を纏っていて、そこからは一息に足の先までをストレージの外に、飛び出てきた。
「え? あれ? えーっと、え?」
アイシャの頭はいま激しい波を噴き出したばかりで状況の整理が追いつかない。マイムに至ってはその“着物の女性”とアイシャを見比べてパクパクとしている。
やがて着物の女性はスルスルと移動してアイシャに向かう足を止めて、標的を変えて横倒しのマイムの足元で立ち止まる。
「あ……」
マイムが反応する間も無く、着物の美しい女性はマイムの肌に触れて唇を重ねた。




