少ししょっぱい味
「ぐうぅっ! こんな小人たちにも勝てないのか俺はっ!」
「水の膜に水の弾丸は意味無かった……」
「なんで残ったんだぁっ」
四苦八苦するベイルは思った以上に足手まといになっているマイムをそれでも庇いながら戦っている。
「ベイルさん、すみませんっ。やっと到着しました」
2人の窮地を救ったのはクレールたち若手の4人である。
「それでアイシャはっ⁉︎」
「いや、この状況で嬢ちゃんのことは後にしろっ。動け動けっ、街を救うんだっ!」
「ぐっ……分かりました。行こう、みんなっ」
後回しと言われて残念がるクレールだがここで駄々をこねるような子どもでもない。走ってきたばかりとはいえ元気な若者の参戦でその周囲だけ少し盛り返してクレールたちは散っていく。
「お待たせっ」
「アイシャちゃん、おかえり」
クレールが去ってすぐアイシャが上から落ちてきた。実のところもう少し早く来れたのだが、クレールに鉢合わせたくないためにアイシャはあえて遅らせてきた。
「えらく早かったんだな。街長には会えたのか?」
「私は会ってないけど、護衛もいたし引き渡してきたよ」
いつの間にか消えていたりするのを引き渡したとは言わないのだが。
「それならいい。ここは──噂の花の精霊のチカラでどうにか出来るのか?」
「えぇー。私にそんなチカラはないよぉ」
「なっ──となると自力で切り開くしかねえってか」
何でもかんでも「謎の花の精霊しゅごい」で切り抜けていては結局のところ、ルミを含めてアイシャまでもが戦場に駆り出されるばかりになる。それはアイシャの求める未来とは違う。時にはルミのチカラにも頼れない制限があるかのように見せておかないと。
戦況は決して良いものではないが、今すぐに陥落するほどに危機的状況でもない。栗鼠人族が脅威となりうるのは魔道具の効果が失われてその武器が殺傷能力を取り戻した時だろう。それまでは数だけの非力な相手でしかない。
「だから俺たちはどうあっても魔道具を守る必要があるっ」
頼みの綱である花の精霊の圧倒的チカラが当てに出来ないとなると、自分たちの持てるチカラで最良の結果を求めるしかない。ベイルは方針を定めてそれぞれに魔道具を守るよう通達しにアイシャたちを残して去っていった。
「あたしとアイシャちゃんとルミちゃんでここは守る」
さっきまでいた場所からほど近いところにある魔道具の護衛をベイルに頼まれて勇ましく構えるマイム。ただ底を尽きかけている魔力では心許ない。
「アイシャちゃんは戦える?」
マイムの中ではアイシャはまだ見ぬチカラを隠していると考えているのだが──
「お、お昼寝なら任せて」
仲の良い友だちを欺くのは心が痛むがアイシャはこの場をどうにか凌いで何も変わらない明日を手にする方が今のところは大事である。
「分かった。じゃあギュッとしてて」
「こう?」
「もっと、そう……こんな感じがいい」
「ほんほに? (ほんとに)」
それはお互いに向き合って抱きついているのだが、アイシャの顔はマイムの胸に埋もれてキスしている。アイシャも柔らかいそこは嫌いではなく、むしろ好きなので言われるがまま誘われるがままに埋めて、ぺろっと舐めてもみる。
「んっ……アイシャちゃんを感じる」
「ああ、なるほど(何がっ⁉︎)」
舐められて軽く悶えるマイムを見てルミが何やら納得したのだが、アイシャにはさっぱりである。けどそれが許されるのならともう少しぺろぺろする辺りやはりアホの子である。
アイシャたちの周りは変わらず戦場で、奮戦する街の人たちも栗鼠人族の連中も少女らのそんな戯れに気づいてはないが明らかに場違いな行為。
「──これで頑張れる」
だがそれはマイムの魔術を使う条件を確かに満たしてくれたようだ。




