着る人によって印象は変わるもの
「うぅ……またこの服かぁ」
ミドリに手渡されたのは前回でアイシャにより作られたミドリの専用銀ぎつね着ぐるみパジャマである。
「性能がいいのは分かってるのよ。だけれど……」
普段から全身に黒装束で胸にはサラシを巻いて男とも女ともつかないスタイルのミドリはどうもこの身体のラインがハッキリと出てしまう着ぐるみパジャマは苦手なのだ。その上でいまは下に何も着けていない。
「うっわ……何その大泥棒もイチコロなスタイル。引くわぁ」
「ひどいよぉ」
アイシャたちが着れば可愛いだけのはずなのに、くっきりと盛り上がり揺れるのが羨ましすぎて。
「せめて、せめて黒色なら……」
「ん、黒色? んー、出来そう」
「本当? じゃあそれにしてっ!」
ミドリはドロフォノスモードでなければこんなに女の子してるんだなとアイシャは水中で捨ててきた事が正解だとひとり心の中で喜んでいる。
「多少、性能が落ちるのは──」
「仕方ないよ!」
それほどまでに黒色が好きなのかとアイシャはそう思うだけだが、ミドリにしてみれば破格の性能が多少落ちたところでただの黒装束よりはずっといい物だ。そして気持ちも落ち着くのだからこの局面では充分すぎる。
「胸のところは?」
「きつめで」
「ボディラインは?」
「余り出ない方がいいかな」
「よし。じゃあ……“パジャマ作成”」
純粋なお昼寝士の技能のひとつをミドリは初めて見ることになる。
アイシャが技能を口にすれば空中にストレージが勝手に開いて、中から銀ぎつねの毛皮と先日の熊の毛皮が出てきて、空中でバラバラになってからミックスされていく。内側は別の市販の布が使われているがそれさえも糸にまでバラされた上で専用の布へと織られる。
「アイシャちゃん、これは一体」
「お昼寝士の技能だよ?」
手で触れることもなく、全てが自動で行われるクラフト技能などミドリは聞いた事がない。そしてその精度の高さは工程を見ていればわかる。なんで普通の布が気付けば伸縮性に富んだ滑らかな素材へと変わるのか。その布を裏地にして表に縫い込まれていく狐と熊の素材。
「報告したい。局長に報告したいよぉ」
「その場合デカ狐と再会することになるけど。記憶をぐっちゃぐちゃにされるかもだけど」
ミドリは思い出して半泣きになり首を横に振ってみせた。
「なぜ、動物縛りなんだ……」
キャラが混じってしまうほどに難解である。
「可愛いからじゃない?」
技能自体は“パジャマ作成”と言っていたのに作るのは着ぐるみパジャマばかりで、しかも動物をモチーフに可愛くアレンジしている。
「それにしてもこれは──」
「くま? きつね?」
アイシャもミドリもなんか違うと出来上がったパジャマを手に悩んで
「「あ、ハクビシン」」
やっと出てきた名前にハイタッチする2人。
「ねえ、なんでくま素材ときつね素材でハクビシンなの?」
「聞かないで。私にもわからないもの」
「うん。いい感じよ」
「ばっちりだね」
くまの毛の手触りが心配ではあったが、思ったより滑らかで性能の低下もそれほどではない。
「あと、これ。ミドリちゃんに」
「クナイ? どうしたのこれは」
ミドリに手渡されたのはアイシャお手製のクナイだ。フリーストリートでの販売のときにも店に並べていたのだがミドリは来店していないためにストレージにしまいっぱなしであった。
「そっちは普通の技能で作ったよくあるやつで悪いけど、ないよりはマシかなって」
「ううん、ありがとう。本当に助かるよ」
何があるか分からないこんな場所だから武器は手にしておきたい。
「じゃあ、行きますか──の前に、みんなよろしくね」
「な、なにそれ……」
アイシャのストレージから飛び出したのは光るミミズことノームたち。彼らが列をなして天井に貼り付けば闇の中だった通路の奥もぼんやりと見通せるようだ。それ以前に2人のいるここも最初からずっと照らし続けてくれている。
「ん? 灯りだよ」
「報告したいよぉ」
装備を整え視界を確保した2人はやっと奥へと進み始めることが出来た。




