みんなのアイシャ
サヤは何と宣言するでもなく戦場に向き合う。
「お前らぐだぐたいっとらんで、やる奴はやりゃあええし、やらん奴はここで──見守っててくれりゃええんやっ!」
「俺たちは行くぜ。あの子も助けなきゃだからよ」
「そうそう。テオがゾッコンのあの子を助けないと」
「る、ルッツもだろ?」
そんな男子ズのカッコいいやり取りにサヤも思わず笑みが溢れて高らかに声を上げて駆けだす。
「アイシャちゃんは誰にも助けさせないっ! 私が、私こそが助ける騎士なのよっ!」
鞘は捨てていく。あとで取りに来ればいい。身を軽くしてマケリのように速く、速く駆ける事が優先。
立派な牙を持つ巨きなトドの魔物が行手を阻むがサヤは止まれるスピードではないし、止まる気もない。ただ振るだけでは勢いも力も足りない。
──遠心力って言ってね。コレをこうして……あ、ごめんサヤちゃん──
小さい頃にアイシャがドヤ顔で教えてくれた記憶には糸に木の実を付けて回したらそれだけでも痛いんだよといってサヤのほっぺたに間違ってぶつけた思い出がある。
(加えるっ! 回転!)
ドロフォノスがサヤを投げたみたいに1回転して振り抜けばスピードの乗った剣は黄色い軌跡を残してトドを両断した。
「すっげ……マケリさんにも負けてねえんじゃねえか?」
「サヤは地道に鍛えてきたからな。その成果が出たに過ぎない」
「あー、ハルバはサヤちゃん推しだったか」
「ぐっ……いいだろ、別に」
否定しないハルバをからかう男子ズたちを尻目に、フレッチャたちも各々の得物を手に構える。
「私たちも行くぞっ!」
「行くのですっ」
そうして海辺の戦場はサヤに続けとばかりに気付けば議論もほったらかしての子どもたち全員参加の戦場となっていく。
「あー、あのこたちみんな来てるじゃないの。まだ絶対無理な子もいるのに。何? 同調圧力とかってやつ? どうしよう守り切れる気がしない!」
「そんなもん、こっちに呼べばいいだけだろ」
「みんなに声掛けてる余裕なんてないわよっ」
波の範囲は広く、個々があまりに展開してしまうと職員たちもカバーしきれない。
「んなもん、こうすればいいだけだろうよ」
「珍しくなにか妙案でもあるのね」
すうっと息を吸い込んでベイルは叫ぶ。
「子どもたちっ! 自信のねえやつはここに来て俺たちを助けてくれれば“俺とマケリの倒した分のスキルポイント”をくれてやるぞっ」
「えっ⁉︎ ベイルっ、それは──」
「へっ、寄ってきたじゃねえか。なあに、やり切ればきっと局長も喜んでくれるぜ」
「──ぐすっ」
「サヤっ、無理をするな」
単身突っ込んだサヤにカチュワとフレッチャが追いつく。今も危ないシーンだったがフレッチャの魔弓が魔物の胴体を貫き事なきを得たところだ。
「フレッチャちゃん、アイシャちゃんがねっ! チカラをくれるの」
恍惚とした表情で告げるサヤは少し危ない気もするがその剣がアイシャ作だと聞かされ、それも無理はないかと思う。
「私の愛射(アイシャ:フレッチャ命名)も頑張れと鼓舞してくれている」
サヤが「私のってどういうこと」っと軽く抗議をする。そんな2人を襲う魔物の攻撃はカチュワの盾がしっかりと防いだ。
「カチュワの愛盾(あいじん:カチュワ命名)もみんなを守るんだって言っているのです」
「カチュワ、それはアウトだ」
「ええ〜なのですぅ」
それぞれがそれぞれに奮起して活躍した戦場は大した被害もなく終わりの時を告げる。サヤの剣も今はその光を元の剣身の色に戻している。
「無事、ではあるがもうさすがに限界だな」
「そうね。局長は褒めてくれるかな?」
戦い疲れてへたり込む子どもたちを見てベイルは来年の新入りは楽しみだと満足そうに頷いている。
「ベイルさんっ! アイシャちゃんを助けないとっ!」
「ああ、ああ……それにはそうだな、あの花の精霊を見つけられるといいんだが」
こんな事ならアイシャに付けておけばという後悔もしたが、今はそれよりもアイシャとドロフォノスを見つけることが先決。
しかし問題はそれだけでは終わらなかった。
「ベイル、あれ……見てよ」
マケリがあれと言ったのは海から上がってくる新手の魔物である。青い身体をところどころ発光させながらぜん動運動で進む魔物。波の寄せる音のような動きはその巨大な身体で接近を勘づかせないものである。
「漁業ギルドには文句言ってやるわ──」
サヤまでもアイシャちゃんアイシャちゃんと訴えるのを忘れてしまうほどの異様。
「生きて帰ったら、な」
子どもたちは避難だなと付け加えてベイルは戦斧を手に覚悟を決めた。




