盛る夏の海
「良かったねえ。今回はみんな一緒だよぉ」
「はは、ほんと……良かったよ」
無邪気に喜ぶサヤに対してアイシャはどこか浮かない。今回は問題なくサヤたちと一緒なのに。
「みんな、一緒……」
「アイシャ、気持ちは分かるがその顔はあいつらの前では隠した方がいいぞ」
フレッチャの言うあいつらとは──
「なんで男子と女子で別なんだ……」
「移動だけだ。現地では合流するんだからそれまでの我慢だルッツ」
「ほんならちゃっちゃ行こうや」
「お前ら……」
ご存じお猿さんたち、だけでなく今回は参加者40名がともに向かい同じ場所で一丸になって行われる。
「パーティ単位は勝手に作ればいい。今回の探索行は個であり全である。そして──」
出発前の説明はギルドの前に集められて行われている。ベイルが話し、他の職員は男性が2人とマケリに女性がもう1人。そしてドロフォノスもいるのだから監視任務は続いてはいるのだろう。
「武器防具道具の一切は職員に預けろ。アイテムボックス持ちの職員が運搬する。今回お前たちは装備なしでさらには──」
ベイルは並ぶ馬車のそれぞれを指差して
「移動の馬車内で現地近くになればこちらが用意した服に着替えて貰う。全員同じ条件下での内容となる」
「着替えのサイズは安心してね。みんなの体格は健康診断の結果と──」
「拙者の眼が正確に把握している」
「健康診断の……」
「アイシャちゃんが震えているのです⁉︎」
おじいの背中で聞いたあれはおとぎ話か何かだったようである。先日誇らしげに胸を測られたアホの子に開示された真実はあまりにも残酷で衝撃が大きすぎた。
「移動が幌馬車とは。どこまでいくんだろうな」
たまに外を覗くフレッチャたちだが、そうでなければ周囲を完全に覆われた中から外の景色は見えない。5台の馬車に他の子たちも交えて女子16名、男子24名が男女別に押し込められている。
「御者まで女性。中には欲望の権化」
「誰がよ。マケリお姉さんでしょ」
「あいたた……」
軽くほっぺをつねられるアイシャに周りも笑う。
「それにしても徹底して男女分かれているんだね」
「サヤちゃんは一緒の方が良かったのです?」
「まさか。私はアイシャちゃんと一緒ならっ」
首に巻きつくサヤ。この幼馴染はだんだん遠慮が無くなっていく。いや、元から遠慮など無かったのが少しだけ大胆になっただけなのかも。女子ばかりの馬車で黄色い声が響き渡る。
「なんか女子たちの馬車は楽しそうな声が聞こえるなあ」
女子を2台の幌馬車に、男子を3台に振り分けてあり、それぞれに楽しんではいるものの、その盛り上がり方には温度差がある。
「なんだルッツたちは女子のとこが良かったのか?」
「ばっか。そんなことは……ねえよ」
同乗する他の男子からそんな事を言われて、自分たちも少し前まではそちら側で色恋などは鼻で笑っていたというのに。
「到着までの、辛抱」
テオもそう独り言を繰り返し、その時を待ち侘びていた。
「くそうっ、着替えってこんなハーフパンツと袖のないシャツだけとか」
「こんなんで魔物と闘えるやつがいるのか⁉︎」
馬車の中で職員たちに着替えろと渡されたそれはまるで海の家のバイトみたいな格好でとても魔物狩りに勤しむ者の姿とは思えない。
「こここ、こんな格好で何をするっていうのさっ」
先に降りて待つ男子たちも困惑している状況ではあったが、そんなことは次に降りてきた女子たちの姿を見てどうでもよくなる。
「これは少し不安のある服装ではあるな」
「カチュワは盾がないと……」
「私たちはまだましだよ」
男子たちとさして変わらない服装だがズボンの丈は短パンのそれ、シャツはノースリーブよりもタンクトップみたいでブラの紐も見える白のシャツ。
「アイシャちゃんなんて……」
そしてアイシャに至ってはそれよりももっと特殊である。
「いや、今朝の出発までアイシャちゃんが参加するとは聞いてなかったから用意がそれしかなかったのよね」
渡されたのは何かあったとき用の水に入るための服。つまりは水着であり、溺れる可能性を低くすることを重視したそれはまさにスク水のフォルム。そしてアイシャの用意が無かったために着ているのはサヤサイズのそれで、つまりはBから成長したCでありパッドまで重ねて入れている。
「アイシャちゃんも成長したみたいなのです」
「カチュワ、あれは詰め物だ」
気づいてないカチュワにフレッチャが指摘して修正する。
「武器職人の市場混乱の弊害がこんなところにまで及ぶとは思わなかったよ」
やれやれと馬車移動での疲れを取る様に「んーっ」と背伸びするアイシャ。
「お、おい。アイシャちゃんて着痩せするタイプやったんか?」
「背は小さくても脚は長いんだな。それに……いや何でもない」
「小さいって女子ならあれくらいでも全然……それにしてもなんていうかまるで黄金比だな」
「──詰めたな」
髪をアップにまとめ、背中を反って伸びをするアイシャの姿は詰めた胸を強調するようで、伸ばした健康的な肉付きの脚もその付け根までもが男子どもを大いに喜ばせる事になる。
「アイシャちゃん可愛い」
みんなが露出高めとはいえ服を着ている中で1人水着でお尻まではみ出そうなアイシャの姿はプールで見るそれとは違い、この幼馴染までもを魅了するかのようである。というかすでにされている。
「まあ、何であれ揃ったようだな。嬢ちゃんだけは悪いがそれで我慢してくれ」
同じく馬車から降りてきてアイシャの頭をポンと叩きながら全体を確認するように話す筋肉隆々なモヒカンがそんな男子たちからのヘイトを一身に集める。
「ベイルさんって脱ぐとスクリューパイルドライバーが得意なプロレスラーみたいになるのね」
「なんだそりゃ」
シャツを着たものの、肉厚で弾けてしまったために上を着ていないベイルはアイシャの中で世紀末スタイルからストリートな戦士へとジョブチェンジしたらしい。




