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異世界で女の子に転生した彼の適性はお昼寝士 新しい人生こそはお気楽に生きていくことにするよ  作者: たまぞう


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【番外編】部屋の片隅にて眠る

 この世界のギルドと呼ばれる施設はいくつかある◯◯ギルドと呼ばれる部署をまとめて呼ぶ名前で、魔術士系以外の戦闘職が集まり街の安全のために活動する集団が冒険者ギルド。


 エルマーナのように冒険者ギルドでは出来ない魔術による活動を一手に担うのが魔術士ギルド。エスプリ含めこの街に正式には5人しか登録されていない精霊術士も本来魔術士ギルドの所属なのだがその精霊がいないと何も出来ない性質からエスプリのお願いでこの街のギルドでは他部署扱いとされている。それもアイシャにもたらされたノームたちによって近頃は脚光を浴びるようになっている。


 他にも生産系だったり日常に密接だったりする部署もあってさながら役所のようにどの街でもあるギルドはどの街のどの人も産まれてから死ぬまでお世話になり、そこで所属し働く者が大半である。


 精霊術士ギルドが5人だけで独立したと述べたが、その分割り当てられる予算は雀の涙で、そのスペースだけは明かりさえ暗い気がする。だがアイシャの住む街のギルドには冒険者ギルドから独立してたった1人の部署がある。部屋すら割り当てられていないその部署の名は、暗殺者ギルド。治安維持局局長バラダー直属であるそのたった1人は全身を黒装束に包み誰もその中身を知らない。バラダーでさえも。




「「「おはようございます!」」」


 この男がギルドの扉をくぐればあちこちから挨拶が飛んでくる。必ずアポは取られており突然現れるなどということはお昼寝館行きを除いて一切しない。バラダーが訪れる日にはギルドに新しい花が活けられマケリを含めた女性陣も少しお淑やかになり、ベイルはいつもの世紀末ルックにワックスをかけている。


「局長、本日はどのようなご予定で」


 艶のある肩パッドはベイルの意識の表れ。


「大したことではない、報告を聞きに、な」


 局長と呼ばれた髭がダンディなバラダーはベイルを伴い、綺麗に掃除のなされた局長室を訪れた。


「まあ、掛けろ」


 バラダーの言葉にベイルはいささか恐縮しながらいかにも高級そうなソファに腰を下ろす。このときソファを傷めまいと中腰で若干浮かせるという器用なことをするほどにベイルは局長を慕い、憧れ、恐れている。


「報告と言いますと例の」

「ああ、毎年ある聖堂教育の取るに足らない課外授業だ」


 バラダーは高級そうなテーブルに肘をつきため息をつく。


「局長、さすがにその言いようは聞く人が聞けば糾弾されかねないですよ」


「誰もおらんからだ。それに確かに言い方は良くなかったが、取るに足らんというのは特別何かがあるわけでもない毎年平穏無事な行事という意味だ」


 トラブルを求めるわけじゃない。将来のギルドを担う若人たちの品評会みたいなイベントにバラダーが気を回す事などない。例年ならば。


「ドロフォノス、出てこい」

「はっ、ここに」


 局長が呼べばこのギルド内どこにでも即座に現れる。


「んなっ、毎回寿命が縮む現れ方をするなぁ」


 バラダーあたりは呼べば来るのが分かっているからその登場に驚きもしないが、足元の床からベイルの股の間にニョキッと生えたドロフォノスに、やられた本人はたまったもんじゃない。


「ドロフォノス、こう……天井裏からスマートに降りてくるとか出来んのか?」

「ネズミがいますので」


 それなら床下も変わらんだろうとは思うが、どちらに入ることもなく事情を知らないバラダーはそれ以上は追求しないことにした。


 足元の高級そうな絨毯を丁寧に延ばしてドロフォノスはベイルの後ろに立つ。


「落ち着かねえな。お前も座ればいいだろ」

「局長に何かしたら、斬る」

「物騒だなおい。俺がそんな事するわけないだろ」


 クナイを抜き構えたドロフォノスにベイルは勘弁してくれよと文句を言う。


「ドロフォノス、報告を聞きにきた。すでに書面で貰ってはいるが、直接聞きたくてな」


 立ち上がったバラダーは高級そうな上着を脱いでリラックスするつもりなのか、これまた高級そうなワインを一本取り出してグラスに注ぐ。


「2人とも飲むか」

「いえ、職務中ですので」

「右に同じく」


 バラダーの誘いは断られた。バラダーとて職務中だ。普段ならそんな事はしないが、立ったままに高級そうな赤い液体をくいっと口にする。喉の動きが熟成された大人の色気を放つ。


「ドロフォノスの、ちんちくりん担当の報告を聞くのに俺が普段仕事中に口にしない酒を飲むのはだな──」


 バラダーの視線が部屋の一角に向けられる。ベイルもそこにあるものを見て何なのかと思っていた調度品。ドロフォノスだけは平静を保っている。


「この部屋はそれなりに良いものばかり揃っている。代々の局長の趣味だったり贈与品だったりだが──」


 バラダーはその調度品に歩み寄り恐る恐る手を触れようとして躊躇いやめた。


「なんだこの熊の剥製は! 見るからに凶暴凶悪な強化個体の剥製はっ! なんで傷ひとつなくこんなものが狩られて俺の部屋に置かれているのかっ。俺の代で増えた調度品の趣味がダントツでやばいだろうっ」


 この部屋の何よりも高級だろうっとバラダーらしくない声が、押し殺した魂の叫びが部屋にこだました。


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