立ちはだかる罠、罠
「さあ、集団は第一コーナーへと差し掛かりました」
「なんで急に実況が冷静になった」
ルミのご機嫌テンションは変わらず、1人で盛り上がって実況もセルフで楽しそうである。若干後ろをうねうねと追いかけるアイシャも(たまにはいいか)と楽しむ気になってきた。
「第一コーナーは……大砲の雨っ!」
「何それ⁉︎ いたっ? 痛い痛いいたたたた、ぎゃあああ」
「おおーっと、先頭は無事抜けたが後続がっ!『巻き込まれましたね』」
(一人二役だとっ⁉︎)
どうやら遅れを取っている方がペナルティを負うというルールらしい。カタツムリの個体差を馬鹿にしたアイシャによっぽど思うところがあったのか、ただの悪戯か。
「っつ〜! 絶対後者だわ」
楽しく実況するルミはそうやって遊んでいるだけだとアイシャは確信する。
「砲弾の雨をくぐってルミちゃん絶好調ーっ! ルミちゃんのお尻ばっかり見つめてるアイシャちゃんは──おやおや、たんこぶで鏡餅が出来てますねえっ!」
「そんなものは出来てないっ!」
いよいよアイシャも気合いを注入するっ! だがアイシャに気合いが入ったとしてもカタツムリの歩みは変わらないっ!
「さあ集団は第二コーナーへと突入。2頭の差はおよそ1マイマイほど。まだまだレースの行方は分からないよっ」
「マイマイは単位でもあったのね」
逃げるルミ、追いかけるアイシャ。ルミのお尻ばかりを見ていたと言われてバレたと焦ったのは内緒だ。
「第二コーナーは、魅惑の花園ゾーンだあっ」
「今度は何よ⁉︎」
カタツムリは城壁の途切れて崖になっているところを登っていく。当然先を行くルミのカタツムリが登りはじめるのが早いのだが。
「ああーっと、ルミちゃんの“リリーガール”が紫陽花に寄り道してしまったあっ」
先行くルミは自分で咲かせておいた紫陽花にカタツムリがルートを変えてしまい遠く離れていく。
「なるほどっ! じゃあ今のうちにこっちは行くよっ!」
アイシャのカタツムリは寄り道することなく崖を横断してルミちゃんキャッスルの裏側までを通過して早くも第三コーナーに入るかというところ。
「ああーっと、ここで調子の良かったアイシャちゃんの“ビッチガール”が失速ぅ。一体どうしたぁ?」
「うわっぷ。え? 雨? ここには東屋があるはず、な、の、に」
見上げるとその一角だけ屋根がキレイに切り取られていてしかも雨樋のように加工されて滝の如く雨水が放水されている。
「でもカタツムリは雨くらい……え? ちょ、大丈夫? ちょ、ああ〜っ」
「おおっとお? アイシャちゃん落マイマイかぁーっ?」
アイシャの乗るカタツムリは雨の勢いに負けて流され外壁まで辿り着く前に城内に落下してしまった。
「ちょ、溺れてるの⁉︎」
「一体アイシャちゃんのカタツムリに何があったのですかね? 『実はカタツムリは肺呼吸をしてましてね、雨が苦手であれだけの直撃をされると溺れてしまうのですよ』」
「あーっ、分かっててやったなあ!」
紫陽花への寄り道もアイシャを先に行かせた事もルミの罠だったのだ。アイシャがカタツムリの呼吸を復活させている間に悠々とルミは通り過ぎていく。
「ルミちゃんの快進撃は止まらない。どうにか復帰したアイシャちゃんも揃って最終コーナーに差し掛かるっ!」
「ルミちゃんここはなんの罠が?」
「罠とは人聞きの悪い。全てアクシデントよ」
「全部謀られていたわよっ!」
ここまで全てアイシャばかりが被害に遭っている。
「さあレースも終盤。このコーナーではギャラリーのカタツムリたちが乱入……え?」
「何よ、ルミちゃん。予定外? それとも」
前を行くルミの実況が止み賑やかだったルミの言葉が続かない。
「そんな、そんなことって──」
驚き悲しみ唖然とするルミの前に立ち塞がるアクシデント。
「タロウくん1号っ!」
最終コーナーの先、予定していたカタツムリたちの乱入は黄色く光るトカゲによって阻止されていた。




