や、やわらけえ……
翌朝、先のパーティの出発を見送ったアイシャたちは、きっちり30分後に出発する。目的の平原には今日のうちに到着する予定だ。
「あのお昼寝士、ちゃんと見張りの交代にきたんだけどよ」
「あ、あのぬいぐるみな」
「なんや、お前ら枕女の話け」
「そうそう。その枕は持ってなくってさ、代わりにでっけえぬいぐるみを持ってきてよ」
呪い人形カーズくんはver.2となって今度はキルティング生地はそのままにうさぎの形をしていた。
「ほんで、見張りせんと遊んどったってか?」
「いや、起きてたよ。まあアイツは精霊とワンセットだからその辺りは問題ねえのかなって」
「ほんなら別にええやんけ」
「まあ、そう──だよな」
「はよ行くで」
すでに夜を共にしたもう一つのパーティは出発している。取り決めの時間を十分に開けたはずだからとダンは先に歩き始めた。
「……なんか可愛かったんだよな」
「お前も思ったか。イメージがアレだったけどあの格好でぬいぐるみ抱えてうとうとしてるの見たらよ」
「あっ、お前はアイツから交代する方だからそんなサービスショットをっ」
「可愛いかったぁ。少し声かけるの待ったもんな」
少し距離を置くアイシャに前の4人の会話は聞こえていない。昨日と同じくアウェーなパーティの後ろをテクテク歩いている。
「変わらず、という訳でもないか。男子2名はこの後は少し距離を縮めるやも。それにしてもコテージにぬいぐるみか。あのぬいぐるみ、マケリの報告にあったものだな。あれも、要報告か」
今は小鳥の視点で観察するドロフォノスは昨夜見張りにアイシャが出てきたところで一旦その監視が解かれてしまった。自分の意思でなく技能が解除されたのは初めての事だった。しかし慌ててつなぎ直したドロフォノスだったがアイシャの組の辺りだけ動物と繋がれない状態が続いていたのだ。
「魔除け、にしては強すぎる。魔物でない動物さえも……結局どうにかフクロウに繋いだものの20m圏内には近づけず、無理すればまた途絶えたのだから」
そして今はぬいぐるみを警戒して離れたところからの小鳥で観察している。不意にぬいぐるみを出されてまた途切れればアイシャたちのところだけでなく全てでつなぎ直す手間になるためだ。
ドロフォノスがいずれはその効果のほどを検証しようかと思っているカーズくんは今はストレージの中。アイシャの腕の中には枕が抱きしめられている。なので動物も出てくるし魔物も出てくる。
「お昼寝士っ、しゃがめ!」
前から聞こえた声にアイシャが地面にペタンとうつぶせに枕を潰すと、アイシャの頭上を矢が飛んでいき背後に現れた野犬の魔物を撃ち抜いた。
「はあー、びっくりした」
頭上スレスレに飛ぶ矢に。しゃがむだけだと当たりそうだったから思わず枕を下にうつ伏せにまでなった。
「大丈夫か、けがはなかったか?」
「ううん、大丈夫。えっと──」
「俺はテオだ。矢が当たらなくて良かった」
手を差し出すテオ。アイシャは一瞬何かと思ったがうつ伏せの自分を起こしてくれるのだと気づいて手を取る。
「テオ、ね。私はアイシャ。ありがとう、助かったわ」
お礼を言うのを忘れないアイシャ。その際には感情豊かなこの子は大抵笑顔になる。それはまだここの男子たちの誰も向けられていないもの。
「お、おう……まあ、無事でよかったよ。じゃあ」
そう告げて男子たちのところに戻ろうとするテオにアイシャは野犬を抱き上げて
「スキルポイント、テオの収獲だからちゃんと持っていきなよ」
「──あ、アイシャにあげるっ」
「おい、なに助けとんねん」
「そりゃあ……同じパーティだからよ、そういうフォローもしとけば点数貰えるかもだろ?」
「あー、確かにせやな。そんならこの後もアイツが襲われてたら助けにいこか。アイツは逆に助けられてばかりでマイナスやろうけどな」
はっはっはとダンは先に行く。
「手、柔らかかった……」
「あっ、てめえズリィな! なあ、どんなだったんだよ、詳しく聞かせろよ、な」
「ありがとうって、こう笑って──」
「堕ちた、ね。──ママは魔性の女なの?」
「うん? 何それ。魔術士の派生?」
「いや、気のせい。でもなんで分かってたのに助けられるまで放置してたの?」
「それはほら、見てるんでしょ? 今も」
「うん。遠いけどたぶんこっち見てるよ」
「戦ったりしたら、来年あたりはもう戦闘職にされそうだもの。そしたらお昼寝してる時間も無くなりそうじゃない?」
「──ママの原動力が、そこにあるの忘れてたわ」




