アウェーでも私は変わらないわ
「ほんならコイツどないするっちゅーねんっ」
「コイツとかいってたら剣神にチクられてしまう」
「まあ、俺たちだけでやるしかねえだろうよ」
「……」
部屋にはフレッチャの見立て通り40人の子どもたちがいて、8つに班分けされたばかりだ。
そう、班分けをされた。マケリによって。
「こういう時って仲良いの分かってるんだから一緒にしたりしないの?」
「ふふん? 私がそんなことするように見える?」
アイシャの文句に答えるマケリに対して、そうは見えないとは言えない。欲望に駆られアイシャに短剣を向けたこと2回。うち一回はアイシャのお尻に刺さり、もう一回は伸ばした髪の毛をバッサリいかれた。
そんなマケリが思いつきでアイシャたち4人を引き離しても、そういうことやりそう──としか言えない。
「それによりによって男子ばかり」
「なんだよ、役に立ちそうにないお昼寝士に当たったこっちの身にもなれってんだ」
関西弁がダンで剣士。剣神にチクられることを危惧するのがテオで弓術士。あまり相手にしないでおこうなスタンスがルッツで剣士。そんな会話に入らなかったのはハルバで槍術士だ。
「まあ、色々と思うところはあるかも知れないけどね。あなたたちはこれからその5人一組で“キファル平原”で狩りをやってもらうわ。その場所までは街道が続いていて、今のプリントの裏にある通りに進んでいけばちゃんと辿り着くはずよ。もし迷っても最終的にキファル平原の看板の示す方向にそこはあるわっ」
40人を8組に分けた集団は1組ずつ街を出て行く。分けられた組はさらに3つに分けられてそれぞれ北門、北東門、東門で別々に出発する。
「アイシャちゃん、また目的地で会おうねっ!」
サヤたちが大きく手を振り離れていく。サヤたちももれなく別々の組なのだが、出発する門自体は皆同じ北門だ。それに対してアイシャは東門からのスタートで2組だけである。
「男子ばっかり、それもみんな戦闘職だから仲良し……まあ、当たり前なんだけどさすがにアウェーなんだよねぇ」
「ママには私がいるからっ!」
サヤたちと一緒に行動するとばかり思っていたアイシャには憂鬱なことこの上ない。
「それに引率は他はベイルさんとマケリさんていう知り合いなのに」
出発する門も連れ立つギルド職員もこちらは完全な運。くじ引きだった。その結果としてアイシャはみんなと離れてアウェー感満載のこの状態の上に──
「引率、ではない。最悪の危険を回避するためだけの監視人で採点者だ」
175cmの黒装束はそこから覗く目だけでは表情すらわからないのに、話し方も平坦で声も中性的。装備の胸当ては少しゆとりのあるサイズで動きやすさのためか各所で絞ったスタイルはシルエットでさえ性別が分からない。
「先に紹介のあったドロフォノスだ。武器はこのクナイと背中の手裏剣。何かあった時にお前たちの命を優先できるかは保証しない。だから──」
アイシャの中で皐月が「忍者よっ、忍者!」と興奮しているようだが、それは言葉としてアイシャに伝わることなくアイシャの心に連動してしまう。
「そこの、枕を武器にするらしい子ども。『ニンニン、ニンニン』の鳴くのはいいが自分の身は自分で守ることだな」
手を組んで妙な動きをするアイシャはすでに目をつけられてしまったようだ。そして
「あいつホンマに大丈夫なのかよっ!」
同じ組のメンバーからも大いに不評を買ったようだ。探索行はまだ始まってもいないのに。




