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異世界で女の子に転生した彼の適性はお昼寝士 新しい人生こそはお気楽に生きていくことにするよ  作者: たまぞう


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【番外編】蘇る記憶、開かれる扉、施される封印

「女神のお力添え、か」


 食べて飲んで、男ばかりのテーブルはそれなりに戦闘談義で盛り上がっていたところで、ベイルが呟く。


「ええ、あの時の興奮は──これが極楽浄土かと思うほど、でした」

「なあ、それって本当に何の話だよ」


 アイシャとフェルパのフルーツパフェタワー勝負まではクレールもその視界に収めていたが、そのあとのベッドの騒ぎは背を向けていて見えていなかった。逆に正面から対峙していたショブージからはバッチリと見えていたのだ。このエルフの視力もまた人間族のそれより遥かに良く、見えそうで見えないギリギリが歯痒かった反面、むしろたまらなかったそうだ。


「あれだろ?男のサガってやつ。聞いたぜぇ、俺は帰ってて見れなかったけどマケリがよ……涙目で教えてくれてな」


 そう語るベイルは酒で赤くなった顔でニヤニヤしている。


「ええ、お恥ずかしながら。ですがあの時たしかにそこに漲るものが集まっているのを感じました。膨大なエネルギーを」

「なーにが膨大な漲るエネルギーだ。マケリはとんだフニャチンだったって言ってたぞ」


 わっはっはと豪快に笑うベイル。


「フニャチン? なんの話ですかベイルさん。フニャ? それは一体」

「女神の祝福は決してそんな柔なものではありません」


 記憶にあるのは3本目の脚と幻視したなにかのはずだとクレール。女神の祝福を貶されたと反論するショブージ。


「フニャフニャのち◯ぽだって。まあそれでも確かにそこだけ異様な存在感を持っていたとも言ってたな。フニャチンがムチみてえにしなって打ち付けるんだからよ」


 笑うベイル。開いた口のふさぎ方を忘れたクレール。改めて少し恥ずかしいショブージ。


「待て、本当に何の話だ」

「魔族の神秘なのかもな。クレール、お前はそのフニャチンにほっぺたぶん殴られてぶっ倒れたんだろ?」

「隠そうにももう止まらなくて……いっそ見せつけてみたのですが、そうするとその……開放感というのか。たまらなくて。どさくさに紛れて顔を叩いたときはもう……」


 頬を赤らめるショブージ。しかしこいつは酒を飲んでいないはずだとクレール。また新しい扉を開いちまったんだなとベイルが笑う。


「俺は、あの時確かに──」


 記憶の整合が取れてきたクレール。思い出す光景。そそり立つユグドラシル。迫るユグドラシル。頬に食い込むユグドラシル。弾けたユグドラシル──。自分を見つめるショブージの潤んだ目と赤らめた頬。


「あ、あ、ああぁぁぁぁっ!」


 知らないうちに記憶に蓋をしていたクレールは今その封印を解き放たれて混乱の極みに達する。


 3人の囲むテーブルがこれから地獄絵図になるのかというその瞬間。行儀悪くテーブルに降り立ったのは人面の獣の面をつけた小柄な人物。


 クレールの前に置いてあった桃色と黄色の団子を両手に掴みクレールとショブージの口に無理矢理に素早くねじ込みその口を閉じさせて、その人物は音もなく消えた。


「ぐあっ! 辛い……痛えっ!」


 桃色の団子をねじ込まれたクレールはその激辛唐辛子入りの衝撃で完全に開ききる前の記憶に蓋をして床に転がる。


「うむぅっ⁉︎ これは女神の匂い……かっ、辛いっ!鼻までっ、ぐああ」


 お面をつけてはいたがその匂いだけでアイシャの手によってねじ込まれたことを悟りかけたショブージだが、口から鼻に突き抜けた大量の山わさびの刺激にこちらも床に転がった。


 アイシャのイタズラで作られた激辛団子にはそんな効能などはないが、クレールは再びフニャチンビンタを記憶の奥底に沈めて、ショブージは心に乱れ咲き始めた薔薇園を一斉に枯らせて元のロリコンへと落ち着いた。


「まったく、ロリコンで薔薇とか情報過多なんだよ」

「……嬢ちゃんの団子には何がはいってんだ」


 床で悶絶する2人を見下ろし、腰に手を当ててやれやれといった風のアイシャとその差し入れの中身に震えるベイル。


「まあ、ベイルさんの種もみはただの種もみだから。“ワシらの明日を奪ったモヒカン”の必須アイテムだよ」


 アイシャとて何を言っているのか分かってないのだが世紀末モヒカンにはどうしてもそうしなきゃならないと思っただけだ。


 こうしてアイシャのパーティによりクレールとショブージは熱い友情を手にして決闘によるわだかまりなども残さず綺麗に終われたのだ。再び目覚めた2人が少しだけ語り合った内容は誰も知らないが、聞くところによると「同じ趣味の同志」としてこれからも交流を深めていくらしい。


 その趣味というのがアイシャを対象とした“少女愛好家”としてのものなのか、あるいは薔薇色のそれなのかは本人たちにしか分からない。



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