パジャマ入れ
その日の夕飯はアイシャと両親にサヤを加えた4人で楽しく過ごした。
剣士適性として聖堂武道館で鍛錬に励むサヤの話は両親を楽しませ、サヤの口から語られるアイシャのことに安堵したものだ。これはアイシャでは出来ない。両親がよく知る第三者からの言葉だからこそ信じられる。
アイシャはサヤにありがとうと心の中で告げた。はずなのにふと見たサヤはこちらを見てニッコリと笑った。
「アイシャちゃんのパジャマ姿が見たいの」
「どういうこと?」
そういえばパジャマパーティだとかいっていた気がする、とアイシャはおぼろげに思い出す。
「ほら、クレール先輩の持ってきたパジャマ。あれ絶対可愛いと思うんだ」
サヤはあの時は騒動の中でアイシャがさっさと鞄にしまっためにパジャマがあまり見れなかった。というより窓の外に気を取られていて見るタイミングを逃したし、先輩がパジャマを手にやってきた事の理由を考えるので忙しかった。
「ああ、なるほどこれね」
アイシャは空中に手で円を描いた中から無造作にパジャマを取り出した。そこには何もないはずであり、手品でもなんでもない。アイシャがなぞった手の形に奥行きがあるような平面のような視覚に不安を覚えそうな穴がある。
「アイシャちゃん、ちょっと待って。さすがの私も冷静になっちゃったよ」
「うん? なにが?」
アイシャが呼ばれて顔をあげると、さっきまでのどこかフニャっとしたサヤはおらず、妙に真面目な顔になったサヤがそこにはいた。
「今どこから出したの?」
「え? あー、これ? ちょっと待っててね……ここ」
いつもパジャマを取り出すサイズではなく両手で描いた最大サイズの円の中には虚空が広がっている。中に何があると言われても目で見ることは出来ない穴が。
「アイシャちゃん、これなに?」
「なんだろね。でも色々入るから便利なんだよ」
これもアイシャが前世でそういうものに触れていれば説明もできたかも知れない。この世に生を受けてからずっと過ごした世界は、アイシャが物心ついてから目にして体験して知識として教えられたどれもが前の世界からすれば不思議なものばかり。
そんな不思議を自分がやってのけたとしても、やったうえで不思議に思っても実際に出来るのであればきっとこの世界では普通なのだろうとアイシャは納得していた。とはいえ、その不思議が不思議以上に不可思議なことであったらと、人前で披露したのはこれが初めてで、何気にサヤの反応如何で今後どう扱うかを決めるつもりである。
「アイシャちゃんはアイテムボックス持ちだったんだね」
「アイテムボックスっていうのこれ?」
「そう。まあ別にめちゃくちゃ珍しいって事はないんだけど、あったら羨ましがられる技能だね」
「はあ、お昼寝士って謎だねー」
突然の幼馴染の行動に驚いたサヤだが、そこまで言いきって「それでもびっくりしたよー」と言いベッドにぐでっと倒れる。倒れて、ベッドの匂いを嗅いでいるようだったが、思い出したように布団から鼻を離して、
「あ、それよりパジャマ!」
すぐに復活したサヤはまたも顔が緩んでいる。取り出して置いてあるパジャマを手にして、こちらの匂いも嗅いでからアイシャに手渡す。
「うん、分かったから……ちょっとだけ向こう向いててね。着替えるよ」
何となく恥ずかしくて向こうを向いてもらい、アイシャはさっと着替える。アイシャとサヤは昔はよくお風呂にも入ったのに、さすがにこの歳になると少し恥ずかしい。今度はアイシャまで赤くなった。
夜はまだ長い──。
世間一般・・・アイテムボックス
アイシャの技能・・・ストレージ
箱と倉庫。まあ、そんなに変わらないよね!




