そこは禁断の花園
ショブージの髪の毛が逆立つ。
危うくフェルパとアイシャの唇が重なるほど近くで舐め取られるクリームに嫉妬する。
ショブージの魔力が可視化されるほどに濃密に練り込まれ外に漏れ出る。
フレッチャの首筋を拭う手の動きまで鮮明に網膜に焼き付きそうなほど目を見開いた。
オーラのような魔力はさらに濃く激しくなる。
マイムの手がリコの胸元深くまで入り込み生クリームを拭き取る。生クリームを、だ。しかし絶対にそんなところまでは浸透していないがマイムはなあなあで済ませる。
ショブージの脚が内股になって中腰になるが迸る情熱はとどまるところを知らない。
カチュワは「そそそ、そんなところには入ってないのですぅ」とスカートを押さえてサヤの侵入を阻む。
ショブージは何かの臨界を迎えたのか、口から漏れ出ていた慟哭がピタリと鳴り止んだ。
「まあ、いっか。このベッドとも最後だし、このままダイブっ!」
アホの子はこれを売り物にした結果としてロリコン2人が争っているのも忘れて生クリームまみれの少女たちをベッドに沈める。スカートに生足、少し開いた胸元は大小それぞれだが、そんな少女たちが仲良く倒れ込んだそこはきっと禁断の花園。
ショブージは覚醒する。頭の後ろで手を重ねて胸を張り、屹立したそれをこれでもかと見せつける。いつしか失くしたかもしれない誇りの大樹が今、蘇ったのだ。
「うわ、最低……」
アイシャのそんな呟きも覚醒したショブージには最高のエッセンス。誰にも止められない……っ! 滂沱の涙を流す彼はすでに自由の翼を手に入れていたのだ。
「一体何がどうなって──お前は本当に、エルフなのか!」
クレールが目をむくのもわかる。先ほどまでのどこかなよっとした印象を見せる青年はもうどこにもいない。ここにいるのは股間の大樹をこれでもかと強調させた美形の変態なのだから。
「今の私に敵なし!」
間合いは一瞬にして詰まる。いや、クレールにその動きが掴めなかっただけである。弓なりに反った姿勢のまま、内股気味に腰を突き出した変態ウォークがクレールの感覚を狂わせたのだ。
繰り出されるトゥキックを躱す術はない。クレールの鳩尾に突き刺さった蹴りはすぐさま引かれて今度は逆の脚がしなやかな鞭のようにクレールの頬を強打して、横を向いた鼻頭に短めの脚がビンタした。
「3本目の……脚っ⁉︎」
屹立したエッフェル塔は少し柔らかめではあるがしなやかにクレールをはたいてみせた。
「俺の顔に何を……打ち付けた?」
「もはやあなたに勝ち目はありません」
揺らぐ波のような動きのショブージ。そこにはたしかに浮かび漂う丸太がある。少し柔らかめではあるが。
「これぞ真髄。溺れるがいい──愛のパッション」
(馬鹿げている……しかしこれは剛でも柔でもない。呑まれれば脱する術のない荒波のようであり、そして──)
流れるような腕と脚と竿の連撃はクレールに世界の広さを痛感させた。
「──これが、真理」
覚醒したエルフの舞に敢えなく崩れ落ちたクレールは決闘の末に何を見たのか。ギャラリーは果たして2人の闘いの顛末を見届けたのか、それとも一生に一度と見られることのない神々の戯れを眺めていたのか。
「これは……一体何があったのですかアイシャさん」
お昼寝士の少女が執り行う喫茶店はどんなものかと、仕事を抜けてきた教師にはそそり立つユグドラシルも崩れ落ちた卒業生も生クリームまみれではだけた生徒たちもそれを取り囲む大人たちさえも、全てが理解の外の光景であった。




