いちごの練乳かけのような少女たちのオブジェ
「くっ……!」
クレールに突き上げられ宙に舞うショブージ。追撃しようとするクレールに空中で鋭い前蹴りを放つもかわされ、強烈なハンマーパンチを受ける。
「風よ!」
とっさに風の魔術で体勢を整えて着地したものの、腹に残るダメージは深刻なものだ。
「ああっはっはあーっ!」
振り抜いた拳にその衝撃が残るそのままにクレールは跳びかかる。押せ押せで勢いを緩めないのがこの男の強みであり、それは悲しいことにアイシャが煙たがるところだ。
両脚を前に揃えて蹴り出す、いわゆるドロップキックは風を纏うショブージにかわされてしまったが、伸ばした腕はその首を捉えるフライングラリアット。クレールの狙いは初めからラリアットだったのだろう、そうでないと蹴りを狙ったそのままにその跳躍が届くはずもない。
「ぐぅっ⁉︎」
勇ましい男の腕が麗しき男の首にめり込む。湧き上がる歓声と悲鳴が推しを表している。身体ごと着地するクレールの腕からショブージはその首を支点に一回転して逃れてみせた。人間族では困難な動きも持ち前の魔術の素養で可能とするのが魔族の強みでもある。
「気味の悪い動きをするっ」
クレールは人間族との組手は経験してきたものの、魔族と闘うのは初めてだ。
「風に愛され風を纏うとは聞いていたが、これほどとは」
慌てて立ち上がるクレールに対してショブージの追撃はない。喉を痛めて回復に専念している。両者の距離は最初より広く取られており、警戒しているのがわかる。
「まずい……ですね。思ったよりも私は武器と魔術に頼っていたようです」
この決闘は武器はもとより魔術による直接攻撃も禁じている。もともと予定になかった催しで、ギャラリーも会場もその準備を万端としているわけではないから危険が及ぶような事をしない、という理由のためだ。
「はっ! 魔族ってのも思ったほどではないな!」
アイシャを意識して本人なりにカッコつけるクレール。しかしアイシャはそんな汗臭い男に興味がないことに未だ気づかないのがクレールの悲しいところ。そしてそんなアイシャが何をしているのか、アイシャのいる側に背を向けているクレールには分からない。
「このままでは勝てない。何か、何か打開策が──」
クレールとは別にアイシャの方を正面にしたショブージ。クレールの向こうに見るアイシャたちの繰り広げる光景に思わず息を呑む。
「こ、これは! 神々の戯れ──!」
「はい、フェルパちゃんの負けね」
「アイシャちゃんのパフェのバランスはおかしすぎると思うの」
うさぎの形のりんごの上にさくらんぼを乗せてその上にメロンが乗ってキウイの上にバナナが乗るような謎の芸術作品はアイシャが作り上げたものでフェルパのパフェの3倍にはなろうという高さを誇る。
「じゃあ、負けた方は……ベッドに座って、ほら、ほら」
「こ、こう?」
「なになに? あたしも参加するー」
ベッドの上で女の子座りをさせられたフェルパに寄り添い座るマイム。
「じゃあ、私も!」
そんなフェルパに抱きつくように飛び乗ったのはサヤだ。フェルパもマイムもまとめて抱きしめる。
「なんだか楽しそうだな。ここからでも審判はできるだろう。というよりいらないと思うしくつろがせてもらおうかな」
勝手に始めた審判役を放棄してフレッチャも参加して3人の後ろに膝立ちで陣取り、カチュワとリコを呼び寄せる。
「カ、カチュワもなのですっ?」
「わたくしも? ……でもいいかも知れませんね」
あたふたするカチュワが参加してリコが頬を赤らめて上品に乗る。男たちの争う中古ベッドが満員御礼である。
「なんだか罰ゲームでもなんでもなくなったね。それじゃあ私もそこの特等席にお邪魔しようかなっ!」
ベッドの上にアイシャの仲良し“チーム・ララバイ”盛り合わせが出来上がる。そしてそこには最近仲間入りしたあの子も飛んでくる。
「お昼寝タイムなの? じゃあ私も休憩もらおうかなっ!」
アホの子の眷属である花の精霊ルミも精霊らしく空を舞い飛んでくる。その手に生クリームのたっぷり乗ったボウルを持って。
「あだっ⁉︎」
アホの子の眷属はやはりアホの子で、何もあるはずないのに空中で躓いてアイシャの顔面に激突する。
「ルミちゃん、何してるのさ──」
「いでで……あれ? ボウルは──あっ」
ルミの手を離れ宙に舞ったボウルは奇跡的な回転をしながら生クリームをはじき出してベッドの上に降り注いでいく。見上げる少女たちに舞い散る白いクリーム。それはまるで祝福されたかのような煌めく絵画のような……そんなのは一瞬の気のせいで、あとにはクリームまみれの少女たちがベッドの上でもみくちゃになっているだけだった。
「もう、全身ベトベトだよぉ〜」
そういいつつアイシャの頬についた生クリームをペロリと口づけて舐め取るサヤ。それは伝染してお互いに拭きあい舐め合う光景が繰り広げられる。
「まさに、神々の戯れ──! うおぉぉぉぉ!」
そんな神々と戯れたいのはショブージもそうだがきっとギャラリーの半分ほどもそうだろう。中腰になるか椅子から立ち上がれないエセ紳士たちばかり。同様の刺激は情熱へと変換されショブージにこれまでにないほどの戦闘力を授けた。




