すれ違う3人
3学期も半ばを終えたこの日は朝から雨である。道行く人はおらず皆自宅にでも引きこもっているのかと思うような街の様子だがそうではない。毎年この日は聖堂で日々研鑽を積む子どもたちの成果発表がある日だ。
多くの人が雨の中すでにそれぞれが見たい所へと移動している。子の成長を祝う親もいれば今から子どもたちのその能力を逐一チェックするギルド関係者もいる。
聖堂教育の教育棟や訓練棟などには一旦聖堂に入り、その建物の奥の裏口より入場することになる。その通り道となる場所で行われるアイシャの喫茶店はまだ始まらない。
予定は午後からとなっており今はまだ人々が聖堂教育施設へと通行するだけの広い聖堂内の一角にテーブルと椅子を並べている最中だ。それをアイシャとルミ、タロウくんだけでやっていて、普段なら愚痴のひとつも出そうだが黙々と進めるアイシャはそれなりに楽しそうではある。
「この街の人のほとんどがここの卒業生なんだもんね」
そう言ってアイシャの元に訪れたのは幼馴染であるサヤだ。
「懐かしの母校って事なのかな」
アイシャに信仰は分からないが訪れる人たちはみな、一度お祈りを捧げてから裏口へと通過していく。そんな裏口が2つある片方を塞ぐ形にして広がるスペースに不思議そうな顔をしながら。
「サヤちゃんはもういいの?」
「うん。やる事はやったし、お父さんお母さんにも見てもらえたし」
「そっか…私の両親は来ないんだもんね──」
アイシャにも両親はいる。ただ休みが合うこともなくこの日に出会った事はない。それどころか今世の両親はアイシャにあまり干渉しない。実に伸び伸び育つ環境ではあるがその干渉しなさすぎるのもどうなのかとアイシャでさえ思っている。
「え? アイシャちゃんのお父さんもお母さんも毎年来てくれてるよ? ただ出会うたびに娘の寝顔しか見れなかったって笑ってるけど」
部外者侵入禁止なお昼寝館もさすがに実の両親だけは通らせてもらっていて、その寝顔を覗いていたようだ。敵意には些細なものでさえ反応する“寝ずの番”も両親の愛情には発報しないようだ。
「そっかぁ。じゃあ今年は会えるかもね」
いつの間にやらすれ違ったらしい両親とここで会えることに少なくない期待を寄せるアイシャ。せっかくなら今年は寝顔だけじゃないのよ、とアピールするのだ。
「でもさっき私と一緒にここまできて、そのまま帰っていったよ?」
瞬時に期待を幻のものとするサヤ。
「え? さっき? サヤちゃんの来た時……あ、私がうんこしてた時か」
「アイシャちゃん、伏せ字でも使おうよ」
「う◯こ。とか?」
「まあ、そんなとこでいっか……」
来年でおしまいという年のアイシャが初めて参加する行事。みんながその成長を発表し、褒められたり各所にコネを得たりする日にアイシャがするのは、文化祭かのような喫茶店。昼休憩より始まるそれはもう間も無くである。




