リビングデッド(仮)
「だってアイシャちゃん。こんなに可愛いルミちゃんのお洋服をわたしだけで作るなんて贅沢ができるわけないよ。幸せはみんなで分け合わないと」
“幸せ”というのはこの場合、職人冥利に尽きる的な事なのかなとぼんやりアイシャは理解して、なら仕方ないと頷いた。
行政を担うギルドに一部認められていても住人として周りから認められるかは別問題だ。それがこういう形でしっかりと受け入れられているのだ。文句などあるはずもない。
「それでね、ルミちゃん。その“ルミちゃんハウス”もすごいんだけど──」
フェルパはそう言いながらルミたちを連れて奥の部屋に移動する。
(たしかあそこは物置、もとい作品保管場所だったはず。これ以上何が──)
「じゃじゃーんっ!これです!」
「ふおおおおおおおおっ」
本日の目玉、と言わんばかりのフェルパ。興奮が限界突破したルミ。一体何事かと覗いたアイシャ。
「フェルパちゃん、これはやり過ぎだよ……」
「そ、そうかな……? でも、でもルミちゃんの可愛さにはこれでもまだ足りないのかも」
かつては物置だったただの部屋には岩で再現した山河を背に聳える城のジオラマが展開されていた。
どこからか流れる水は優しいせせらぎを奏で、野にはうさぎや蝶々が戯れている。もちろんミニチュアフィギュアだ。城の周囲には石積みの外壁が張り巡らされ、その石の一つ一つまでもが手作りのようだ。
「だ、大理石……」
美しく輝く城は磨かれた大理石で作られており紅い絨毯がよく映える。当然インテリアも凝りに凝っている。
「一応、聞くけど参加者ってここにいる人で全部……?」
「そんな事ないよ。あれから徹夜続きで今ここにいるのはこの戦争を生き抜いた僅かなメンバーだけだよ」
そう聞くとアイシャにはここの生産職の方々がまるで死線を潜り抜けてきた歴戦の猛者のように見えてきた。しかしあまりの不気味さにすぐにそのイメージは殺しても死なないゾンビに変わったが。
「あは、あは、は……じゃ、じゃあルミちゃんはいっそここに住んじゃおうか」
「え? ママのチカラなら丸ごと持っていけるでしょ?」
「な、なんですとーっ⁉︎ どこに、どこに持っていけとっ⁉︎」
「それは、ほら。あの見晴らしのいい丘があるじゃない」
「あそこは私の……」
ルミの可愛いポーズで繰り出されたおねだりに屈したのはアイシャ、ではなくもはや生ける屍となった生産職の連中。
アイシャはそんな彼、彼女らのやる気と圧に屈してお昼寝館の脇に“ルミちゃんキャッスル”を据えることにした。すると半日もしないうちにいつもの東屋は解体されて城を中心に新しい東屋が建てられた。雨風除けに作られたそれは、はたしてそう呼ぶのが正しいのかと疑うほどの大きさであった。




