人間族の世界に舞い降りた精霊
「はいっ、私は“花の精霊ルミ”といいますっ」
(こ、この子あっさりと買収されてしまった)
いつかアイシャが水鉄砲や花火で尋問を受けた部屋でルミは出された紅茶とクッキーにコロっといかされていた。
「花の、“精霊”だと」
「はいっ。“谷間の姫百合”ってご存知ですか? とっても可愛い花をつけるのですよ。だから私も可愛いんですけどねー」
(キャラ付けしているのね。自分で自分を可愛いとかいうのがメルヘンだと思ってるのかな。それはただ他者を苛立たせるだけかもよ)
アイシャは机の上でご機嫌のルミがどういうつもりでこんなにオープンに振る舞っているのかと考えるがただのイタイ精霊にしか見えない。
「それがなんで銀狐みたいな姿してんだ?」
「え、これですか? これは私たち(アイシャやサヤたち)の流行りの服で──脱いでみましょうか?」
「やめなさいっ」
「ぐあぁっ」
ジッパーに手を掛けるルミを手のひらで包むようにして制止するアイシャ。マケリはかぶりつくように見るベイルの目の辺りを容赦なくビンタして目隠しをした。
「あの洞窟の“そば”で、ねぇ」
「そう、洞窟の“そば”で出会ったのよ」
訝しむマケリにアイシャは念押しで答える。
「まあ、精霊自体は敵でも味方でもない中立ではあるがな。しかし精霊に好かれるなどというのはそうそうあるもんじゃない。お嬢ちゃんは外を歩けば不思議に出会わなければ気が済まんのか? 羨ましい限りだがよ」
アイシャはそれには答えはしない。体格のせいで一向に無くならない紅茶とクッキーにニコニコしているルミが「ね?平気でしょ」とでも言いたげにアイシャを見て笑顔になり、アイシャもやっとルミの振る舞いが理解できて安心した。
変に黙り込んで詰問されるよりもさっさとオープンにした方が話が早い。それは精霊本人であるルミがするのであれば尚効果的であろう。
「ところで花の精霊ってのは何が出来るんだ?」
「何も出来ません。みんなを笑顔にする事くらいですかね?」
ニコッと笑うルミ。ベイルは腕組みしたままに「うーん」と唸っている。
「本当可愛らしいわね。その着ぐるみは自前なの? それとも──」
マケリの欲望はそれが例の素材である事を見抜いている。
「はい。私たちの間で手作りするのが流行っていて私はこれが好きなんですよ」
くるりとその場で一回転してみせるルミは本当に可愛い。
「私の精霊としてのチカラですと……あっ。騎獣の召喚ならどうですか?」
アイシャはそのワードに反応してポケットに手を入れてゴソゴソとしてアレを取り出す。ルミはアレと意思疎通する事ができるのだ。
あとは上手くタイミングを合わせてやるだけ──。




