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異世界で女の子に転生した彼の適性はお昼寝士 新しい人生こそはお気楽に生きていくことにするよ  作者: たまぞう


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食堂のリリー

「アイシャちゃん、クレール先輩とはどうなの?」


 夕陽に誓った翌日の食堂でのこと。サヤはカルボナーラパスタをもぐもぐとしながらアイシャにたずねる。


「どうって何が?」


 昨日の件についてはクレールの働きで“ダイナミック忘れ物届け”という現象に落ち着いたはずだ。アイシャのお昼寝士などという意味不明な適性を補完するようなエピソードであることに加え、クレールみずから外に飛び出して去るという、これまた意味不明ではあるが忘れ物を届けてくれる優しい上級生のエピソードとなっているはずである。


「いや、ね。アイシャちゃんは先輩たちと接点ないかなって思ってたけどクレール先輩とは知り合いだったんだねって」


 アイシャはなるほど、と納得した。この優しい幼馴染は自分のことを気にかけてくれていたのだと。実際に友だちはサヤたちのそれと比べてずいぶん少ない。というより友だち……同級生はたくさんいるものの、友だち付き合いとなるとサヤばかりの自分が、上級生とはいえ交友関係にあることで安心してくれたのだ、と。


 しかしサヤの思うところは少し違ったらしい。


「それに忘れ物ってあの変わったパジャマだもんね。パジャマをどこに忘れててなんでクレール先輩が届けに来てくれたのかなって」


 アイシャは口にしてたお茶をダラダラとこぼしながら、結局変な方向に勘違いが広まっていることに今さら気づいた。もちろん、クレールの発言力はそれなりに高く、アイシャより年上の女子たちは疑いもしないだろう。


 だが、同級生となると、この幼馴染ひとりが勘違いしていると、それが周りに広まっていないとは限らない。それとなく周りの視線を確認して、でも色恋に疎いアイシャには雑談に興じるお昼の食堂の人々が昨日の一件をどう捉えているのかなど分かりもしない。


 となれば出来るのは目の前の幼馴染の勘違いを正すことである。正確には少しの捏造もあるが。


「ほら、私お昼寝士じゃない? だからあの丘に忘れていたのを届けてくれて」

「それは忘れ物なの? アイシャちゃんひとり過ごしている丘になんでクレール先輩がいて、アイシャちゃんが脱いだパジャマを持って……」


 口からポタージュをこぼしながらアイシャはまたも勘違いさせてしまったと気づいた。そもそもそのシチュエーションは確かにおかしいが、お昼寝館には扉も鍵もないのだ。アイシャが離れたところを見計らってパジャマを持ち去るくらい、その気になれば誰にでも出来る。


 忘れ物、などと言ったからややこしいことになっている。そしてそれは今さら訂正することも難しい。




 それにしてもいつもはもっと控えめなサヤが何故かグイグイくる。そしてアイシャに対して何らかの不満があるような素振り。カルボナーラはずっと皿の上でフォークに巻き取られ続けてさながら綿菓子のようになっている。


 それらのことから、アイシャはサヤも剣士適性で聖堂武道館でみんなと鍛錬しているのだからクレール先輩を好きでもおかしくないと思い至った。見ればサヤの顔は少し赤く染まっている。これは夕陽じゃない、今は真っ昼間。


「うーん……サヤちゃん、みんなには内緒にしててね?」


 悪ガキを懲らしめたらクレール先輩が来て、までは正直に。


 そしてクレール先輩が怖くてごめんなさいした後に置きっぱなしだったパジャマを持ってきてくれた。


 という自分下げの、弟を思い遣り届け物までしてくれる先輩上げの説明を改めてしてみせた。捏造するにも説明不足過ぎたなら、思わぬ方向への勘違いをさせたとしてもおかしくない。


「はあー、そんな事があったんだね、納得」


 サヤは思いのほかすんなりと信じてくれてアイシャはホッとした。フォークで巻き取られたパスタもひと口に頬張り口につけたソースをアイシャが拭き取れば不穏なお昼ごはんもフィナーレである。


 もしアイシャの思う通りであれば少し寂しさを感じなくもないが、自分を想ってくれる幼馴染にアイシャも応えるため、サヤに微笑みかけて──。


「だからサヤちゃんも頑張ってね、応援してるから」


 これでサヤは心置きなくクレール先輩への恋に突き進めるだろう。アイシャはグッと胸の前で握りこぶしをつくりサヤを応援してみせる。


「え? 何を?」

「うん? だからクレール先輩のこと好きなんじゃ……」

「え? そりゃ先輩は強いけど、好みじゃないかなぁ。オレオレしてる人って苦手だし」

「ええー、じゃあさっきまでしつこく聞いてきてたのはなんだったの?」


 アイシャはてっきりそうだとばかり思っていたのに。食べ終わったトレーを手に立ち上がる2人。


「だってアイシャちゃんを先輩に取られるって思って、さ」


 この幼馴染とはいつも一緒にいたようなもので、仲の良い友だちをとられる事に不安を覚えていたんだなとアイシャは嬉しく思う。


「大丈夫だよ。私はサヤちゃんのことが大好きだから、どこにも行かないよ」


 こんなお昼寝士に理解ある幼馴染は他にいない。


 アイシャは安心させるためにサヤを軽く抱きしめる。同じ不安を感じ、確かめ合えた喜びはアイシャも同じである。


「ほんと? 私もアイシャちゃんの事大好きだよ!」


 サヤの抱きしめ返す力は剣士としての鍛錬の賜物か友だちのそれとは思えないほどに強かった。


 アイシャは危うく鯖折りでKOされるところだったと、自身の弛まぬ鍛錬の日々に感謝した。


鯖折りって謎。ネタ的には腰に腕回して締め上げるのかなというつもりで書いてます。相撲の技はちょっと違う?でもE・本田は……

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― 新着の感想 ―
[良い点] 幼い頃でも尊い百合百合ですね〜
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