無意識に行使されるわがまま
『遥か太古の昔よりこの命は続いており我の成長とともに地面は盛り上がり続けて北と南を分断する山を造り上げてしまった。しかし我の成長は止まる事なく、このままではこの大陸を2つに裂いてしまうやも知れぬ。それゆえ我は我が身を縮小する術を編み出したのよ。分かったか? お主ら』
「は、はい……すみませんアースドラゴン様」
「まあ、確かにデカすぎるのは分かったわ。けど頭だけデカくして威圧するのはやめてよ。おかしすぎて全く話に集中出来ないわ」
アイシャにひたすら小さな身体を馬鹿にされた地龍はその威厳を保つために一部だけを元のサイズにしたのだが、そのせいでさらにアイシャからの嘲笑を買うことになった。
『あのサイズか素のサイズしかないのだ。全身をそうしたらこの洞窟を中心に山が弾けてしまうわ』
「それは困るね。せめて私が出てってからにしてよね」
『しないと言っておろうが。全く──』
広いはずの空間の殆どが小さな身体をくっつけた頭だけのドラゴンで埋まっている。岩大トカゲもその身体を部屋の隅に寄せて小さくなっている。
「それで、その地龍さまが何のご用事なのかな」
『お主に威厳など通用しないというのは聞いていた通りよの』
「つまりは亜神、なのよね」
「あ、亜神様……」
うんざり顔のアイシャと恐れ慄くルミ。
『そちらの小さいのは良い反応をするのにのぅ。よいわ。我は今回はそちらの小さいののために出てきたのだからの』
「え? 私の?」
「なあんだ。じゃあ終わったら呼んでね」
ルミを前面に押し出してアイシャは自分の天蓋付きベッドを出してさっさと寝転んでしまった。
「あ、アイシャちゃん──」
『あやつに言っても無駄よ。まあ用事などは済ませてあってそれを知らせに来ただけだ。聞いてゆけ』
「は、はい」
地龍は優しく、しかし威厳を持って語った。この空間が地中深くに住まう地龍に繋がる舞台で、魔力に反応して咲く花は地龍の気まぐれの魔力を変質させた贈り物であること。ここには子どもの地龍を使いたまに見つけた興味を引いた者だけに許可を与えて誘い込むこと。そしてルミがしようとしていた事を知っていること。
『お主が咲かせた花“ハナズオウ”にはその裏切りの行いを成就させんと我が魔力を込めていた。そうでもなければ2年にもわたって一族の技を阻止出来ぬよ。そしてそれだけのために命を使い果たしたお主に免じて、雪人族の降雪の魔術がこの山脈を越えることを阻むようにした。安心して新たな命を生きるが良い』
「な、なんという……ありがとうございます……」
『うむ。我にとっては容易いことよ。これくらいの反応をあの娘もできぬものかの』
その娘は話をほったらかして寝息をたてている。
「さっきまで寝てたのにまだ寝られるんだ……」
ルミも若干引いている。
「地龍様! でしたら地龍様がご用意しておられた花から生まれた私は──生まれ変わった私は地龍様の眷属なのでしょうか?」
『──残念だが、お主はあの娘の眷属である』
「そ、そんなっ……」
亜神のしもべなのかお昼寝大好き女の子のしもべなのか。ルミにとっては重要なことらしく、しかしそれはどうやらあまり嬉しくない方だったようだ。
『だが、我では出来ぬ事をやってのけたあの娘の元にいるのも悪くはないのかも知れぬぞ』
「地龍様でも出来ないこと」
『輪廻の輪に戻す事なくその性質までも変えてしまう』
地龍の視線の先には寝息を立てる女の子がいるのみだ。
『そんな“わがままな愛”は我らは持ち合わせておらんからの』




