ジングルマザーアイシャ
この洞窟で起こったのは、本来辿り着けない場所に間違って入ってしまったアイシャが岩大トカゲと友達になって、魔族のルミを見送ったと思ったらアイシャのすずらんによって魔族を転生させてしまったという事。
今はアイシャのストレージの中から布きれを取り出してルミに巻き付けているところだ。
「ありがとう。でも私はこれからどうして過ごせばいいのかな」
ルミは悩む素振りを見せているが、本能的に分かっている事がある。しかしそれを口にして押し付けるような事はしたくない。アイシャがそれとなくそう仕向けてくれると助かるなぁくらいには期待しているが。
「これってあれだよね? 私のすずらんから生まれたから、ルミちゃんは私の“何か”なんだよね?」
「た、たぶん……眷属、かな?」
「花の精霊の?」
「うん。“谷間の姫百合”の眷属で、アイシャちゃんはその始祖、かな」
「いや、でも私から産まれたわけじゃないし」
「えっうそっ……認知してくれないの?」
「うっ……それは、その──」
こうなるともうアイシャは断れない。女の子の好意からの問いかけにはYESしか返事を持たない女の子だ。
「あ、すずらんも持っていってね」
「そうだね。ルミちゃんの身体はどうする?」
「そうだよね。知らないところで腐るのはいいけど、私……でもどうしようもないものね」
「うーん、そうでもないよ? じゃあしまっとくね」
アイシャは足でぐるりと地面に円を描いてストレージにすっぽりと収めてしまった。
「おお、それがママの“ストレージ”」
「え? なんで知ってるの?」
サヤでさえ“アイテムボックス”と呼んでいてアイシャは実際の技能名をわざわざ教えてはいないのに。
「ママの眷属だからね。基本ステは知ってるの。とんでもない内容に本当かどうか分からなかったけど、じゃあ全部本当の──」
「ちょっ⁉︎ ママ呼びもあれだけど、何を知ってるって? 全部⁉︎」
「え? うーん、その“人間族の職業とか適性”なんてのは分からないわよ? 分かるのは魔族とも共通のところだけ。つまり能力値と固有の技能くらいよね」
「じゃあ私の、実力が……」
「隠したいのは分かってるから要らないことは言わないわ。私の恩人? だものね」
イントネーションに疑問を覚えるがひとまずはホッとするアイシャ。
「じゃあ、帰る?」
「とは言ってもアイシャちゃんはそろそろ寝ないとしんどくない? ここなら安全だから休んだほうがいいよ」
空には月が昇っていたのだ。いくら昼夜の間隔の狂う洞窟内とはいえ、外が夜だと知ってしまったなら眠気がくるのが人間である。
「本当によく分かってるよね。じゃあ今夜はゆっくりお休みしますかー」
「じゃあベッドは私に任せてよママ」
ルミが魔力を練ると地面から大きな茎が伸びて巨大な花をたくさんつけたすずらんに成長して、そのうちのひとつをさらに成長させれば、中に柔らかそうなベッドが内蔵されたコテージとなった。
「おお、何これすごい」
「ふふん。ママの眷属だからね。ベッドくらいはお手のものよ」
あっさりと受け入れたアイシャとドヤ顔のルミが2人して花のコテージのベッドに横になってみれば花の甘い香りに包まれてあっという間に夢の中へと落ちていった。




