秘密の広場にて
「ルミさんは、その──魔族なんだよね?」
アイシャはルミが人間族と口にし、自らを雪人族と呼んだことが気になっている。アイシャとは別の方向から現れたルミ。
「ええ、その通りよ。そして察しているとは思うけれど私が入ってきた方に進めば、あなたたちから見て山向こうの南側にある魔族領、雪人族の土地よ」
この洞窟は浅く初心者でも魔物狩りができて、クレールたちギルド員によって管理されているはずだ。それが魔族領と繋がっているとなると一大事である。
「じゃあその気になればここから人間族の領土に戦争を仕掛けることもできるってこと?」
この穏やかな洞窟から抜けて魔族が襲撃してくる。それは戦争としても嫌だし、アイシャも気に入ったこの場所がそんな事に使われるのはもっと嫌だった。
「それはないわね。私もあなたもここに来られるのは異常なのよ。本来は隠された入り口を通ってきたはずよ。誰にも見えなくて認識出来なくて、拒絶される入り口を通って」
「そんなのは──」
アイシャは口にしかけた言葉を飲み込んだ。そういう変な事象に巻き込まれるのが自分なのだ。知らないと言っても現実に起こっている出来事なのだ。だからこういう時は他人のせいにする。
(影か、人面犬かデカ狐のせいね)
「ここはアースドラゴンの結界が張られているから、ね」
過去にアイシャたちが討伐した岩大トカゲはレッサーアースドラゴンだった。なら目の前で寝るあれよりも大きなトカゲは。
「ん? そこのはレッサーよ。まあそれでも人間族がどうにか出来るレベルはとっくに過ぎているでしょうけど」
「あんなにカッチカチなのに」
「まさか仕掛けたの? 私たちだって挑まないのに無茶するのね、あなた」
「敵かと思って。でも仲良くなれたわ」
ルミはそんなアイシャの隣に腰を下ろして今度は完全に座った。
「なら私の代わりに話し相手としてあの子が姫百合さんを呼んだのかもね」
「そう、なのかな」
2人間に少しの沈黙が流れる。洞窟の中なのに月に照らされるサークルは足元に小さな花が咲く野原。アイシャのすずらんが淡い光をいくつも宙に浮かべる。
「──なんで、ルミさんはいなくなるの?」
アイシャは見た目に元気そうで今すぐに死にそうになんてないルミがそれでも嘘をついているようではないと思い、質問した。
「居場所が、ね。もうないのよ。」
「居場所?」
「ね、少しだけ恩着せがましいこと言ってもいい?」
「え? なに?」
「雪人族は人間族に対して既に攻撃を仕掛けているのよ」
そう語りはじめたルミの話はアイシャの心を強く揺さぶった。




