遣い手を選ぶもの
「ああっ! 嬢ちゃん、どこ行ってたんだっ?」
「身に覚えのない事で尋問されそうな気がしたから」
「ああ、それは悪かった。あまりのことに興奮しすぎていた」
2時間ほど寝たアイシャはまだ起きていないマンティコアの顔を見て(私の寝顔もこんなだったらやだな……)なんて失礼な事を思い、気持ちが落ち着いたのでフレッチャの元に帰ってきた。
「アイシャのくれた弓は凄いぞ。あんなに気持ちいい矢は他にない。ただまあ、5本も射れば魔力が尽きてしまうのが難点だけれど」
「人間族でそれだけやれたなら充分ですよ。私も教えた甲斐があったというものです」
言葉は男よりで背中のリボンだけが不安の残るショブージはフレッチャの弓矢の技術がエルフのそれと同じ種類のものである、とお墨付きを与えていた。
「そう、エルフの職人に感謝だね」
「もうそういう事にしとくかぁ、まあ可能性があるってだけでもいいか」
「特殊な製法の我らが弓。他に手にする者もなかなか考えられませんが」
「そうなのか? けどアイシャに頼まれてフレッチャの弓は出来たんだろう?」
アイシャから聞いた話とエルフのショブージの話とが上手く重ならない。
「ええ。その辺りは私にもわかりませんが、もし人間族で誰かが所望されたとしても作る事は叶わないでしょうね」
「なんでだ? フレッチャだけが特別だったということか?」
せっかくの朗報にベイルが喜んでいるところに水を差すようなショブージの発言にはベイルも少し気分を害しているようだ。
「魔弓には使い手と作り手の相性があります。それが他種族間では合わないのですよ。こと人間とエルフであれば特に」
「じゃあなぜ──」
なおも食い下がるベイル。だがショブージや他のエルフの視線に気圧されてこれ以上はいけないと悟った。
「分かった……そのあたりもちゃんと伝えておこう。それでも訪れる者がいれば、その時は話くらいは聞いてやってくれ」
「承りました──」
「なるほどな。相性ねえ、さっぱりわからん」
帰りの馬車の中、ベイルはフレッチャから弓を借りてその作りを見てみようと思ったのだが、不思議と弦が動かない。引けないとかではなくびくともしない。
「私には難なく引けるのですけどね。むしろ誘導さえしてくれるような」
「それで魔力を馬鹿ほど吸われるとなると罠みてえだがな」
「ふふ、そうでもないですよ。不思議と暖かい感じがするんですよ。まるでひだまりのような──」
「眠たくなりそうな弓だな。それじゃまるで嬢ちゃんだな」
「そうですね、この弓の名前はいっそ“愛射”にでもしようかな」
「──なんだか誤解を招きそうな名前だからそれはやめとけ」
「はは。たしかにそうですね。アイシャが好きすぎるみたいだ」
「いや……まあ、なんでもねえ」
会話に参加していないアイシャはお昼寝の続きを堪能している最中だ。それぞれに収穫を手にした3人は馬車に揺られて街へと帰っていった。




