固めに焼けばいけると思うんだよ
「なあ、お昼寝士」
「なにマセガキ」
「んなっ⁉︎ お、俺はマセガキなんて名前じゃねえっ。つかマセガキってなんだ?」
秋の焼き芋シーズンが来て落ち葉を集めて火をつけたところで、そういえばと思い出した時にアルスはアイシャの前に再び現れた。
「あんた、私の体に触ってえっちな事考えてたんでしょ」
「んゅなっ? にゃんのことか分かんねえ」
「文字に起こしにくい発音はやめてよね。サヤちゃんにあんたのこと話したらきっとそうだって。マイムちゃんなんて家ごと水責めしてやるとか息巻いてたんだから」
「な、なんだその野蛮なひとは」
アイシャが止めなければすでに実行されていたようなことだが、さすがのマイムもアルスの家に行けば思いとどまったであろう。
「だからもうあんたに構わないからね? 私のおっぱいはもう触れないから諦めなさい」
「なっ、そんなこと考えてねえよ! 大体おっぱいなんてねえじゃねえぎゃあああっ」
「この裸締めがお気に入りだったんでしょ? ねえ?」
「はだか⁉︎ なんだそのエッチぃ響きのおごごご、締まってるマジにヤバい──」
「首筋にクッションが、柔らかいクッションがあるでしょ! 言え! 言うんだ、アイシャさんのおっぱいは柔らかいですねって! 言えよおおお」
(なんで私は泣きながら歳下の子を締め落としてたんだろう)
「かはっ──はあっ、はあっ。な、なんか悪夢を見た気がする。柔らかい腕とまな板に挟まれて締められるような──」
「もう一回泣いてみる?」
実際に涙目だったのはアイシャだった。
「焼き芋はまだだよ」
「べ、別にそっちでもねえよ。俺はお前に話があって」
「話? 面白い話しかいらないよ? おならしたらケツからクレールがにょっきりこんにちはしたとか?」
「俺はそんな極端な召喚士のチカラに目覚めたりしねえし、にいちゃんもそんなとこから出てこねえよ」
「じゃあつまんない話なのね。まあ、芋が焼けるまでなら聞いてあげる」
「芋のついでかよ」
「芋のついではこの蟻の巣穴を眺めることよ。そのついでに聞いてあげる」
「ひどすぎない?」
兄弟そろって不憫な話である。もっとも──このアホの子に関わろうとしなければそんな思いもしないのだろうが。
「──にいちゃんの事だ」
「か・え・れ。か・え・れ」
「待って、芋もまだなんだし、聞くだけ聞いてよ」
「早く焼けろぉ、焼けろぉ──」
「なんでにいちゃんはこんなのが良いんだ。その……にいちゃんが早く結婚相手を連れて来いって父ちゃんに言われててさ」
「その辺に猫がいたでしょ。メスの」
「野良猫なんて紹介できるかよ」
「じゃあどこかで後輩でもひっかけなよ。あいつ、なんだかんだモテるんでしょ?」
「それが、さ。にいちゃん、とうとうあんたのことを父ちゃんに話したんだ。『俺を負かした女がいる。その人を待っているんだ』って」
アイシャは返事をしない。その代わりに焚き火の中の焼き芋の焼き加減を確かめて考え込む表情を作り沈黙を保つ。
「──ねえ、“焼けた芋”と“焼けた木の棒”ならどっちがクレールの穴に良いと思う?」
「焼き芋のそんな物騒な使い道は初めて聞いたよ……」




