でももうひとつ秘密にしてるんだけどね
それでもバラダーは「護身用水鉄砲か、いいものを見せてもらった」と告げていったあたり、すぐにどうこうとするつもりはないのだろう。
夏休みが終わりアイシャたちの聖堂教育が再開されてもお昼寝館に来客はない。カチュワも剣を始めたらしく、サヤたちと同じ聖堂武道館で過ごすようになった。
もうひとつ変わったことがある。しばらく見なかったリコが編入してきたのだ。
リコがアイシャたちと同じ14歳だと言うのは聞いていたが、まさか同じ学舎に通うことになるとは思っていなかった。
まだ落ち着かないギラヘリーの街へ戻ることも出来ず、その歳の子どもを聖堂教育に通わせない訳にはいかないからとの行政の判断らしい。
「アイシャちゃん、よろしくお願いしますわ」
頬を染めてそう挨拶したリコに周りも騒然としたものだが、アイシャは動じず「よろしくねっ」とだけ返して今はお昼寝館でゴロゴロしている。
「ど、動じないわけないでしょっ?」
ベッドの上で転がってみても落ち着かないアイシャは、思考がキャパオーバーして反応しきれなかっただけだ。
(なんで編入までしてくるのよ? 街中で会うことなんかないからホッとしてたのに。あんなんドキドキして止まらないよ)
奔放なアイシャの仲間とは違い、普段抑えているリコが解き放たれた時はアイシャも「女の子でもいっか」と真剣に思ったほどだ。それほどにリコの熱烈なアプローチはアイシャにとって衝撃的だった。
「そもそも、なんでリコは──」
『お布団』
「あれ? いつの間に」
『私のお布団のチカラのせい』
「そうなの?」
いつの間にか現れていた『彼女』は相変わらず本で顔を隠している。座りながら少し後ずさるような仕草は相変わらず人見知りで引っ込み思案なんだなって思わせる。
「そのあなたのお布団のせいって? 私のおやすみグッズは私が作ったのよ?」
『ううん。お昼寝士の技能で作ったの。私の──“みんなおやすみ”のチカラ。入りたくなって入ったらもう抜け出せないの』
「なにそれっ! こわっ!」
『でもっ、でもっ、あなたも楽しんでた、よ?』
「はあぅっ!」
『ふふふ、リコちゃん良かったねえ。しっぽ特殊警棒でくすぐるなんてあなたも……ああ、良かったなあ』
『彼女』は伝えたいことを伝えたからかその言葉を残して消えて行った。
「いや、それじゃあまるで成仏したみたいになってるよ」
アイシャはとりあえず口だけでツッコミを入れてみたが、その顔は両手で覆っていて、地べたにしゃがんで丸くなっていた。
(あの子のせいでまた、思い出しちゃったじゃない)
しっぽ特殊警棒は使い方で大鬼を倒してみせた凶悪さもあるが、反面女の子を喜ばせるアイテムともなり得たのを先日のお昼寝でリコ相手に実証してしまっていた。




