使えないアイテム
「で、結論としてこれは武器なのか?」
「護身用の水鉄砲よ」
「そんな可愛い代物じゃなさそうなんだがな」
いよいよテンションが上がったバラダーがぬいぐるみのちんちんを思い切り握るとフェルパの時同様に木々を薙ぎ倒してしまった。
フェルパはそれで魔力をごっそり持っていかれて尽き果てたがさすがにこの男は平気な顔をしている。
「これの作成はどうやったのだ? いや、組み合わせは聞いている。だがその組み合わせるという行いが困難を極めるという話なのだ」
「それこそ人面犬にまつわるところになるよ?」
「ぐぅ……それは聞いても大丈夫なやつか?」
「大丈夫なら前置きなく教えてるよ」
アイシャのこれはただの嘘ではない。これだけバラダーにベイル、魔術士のエルマーナまでもが特別視することだ。アホの子もさすがに相手の反応から推察くらいはする。
不思議な不思議なギルドカードというシステムを利用しているというのは他の人と変わらないのに、特別視されることの意味を。
そうした推察の結果、そこまでの事を自分がやってしまえているのはあの影か人面犬のことしかない。と結論を出したのだ。
なのでアイシャの中では、その製法に触れるということは間接的にマンティコアに関わり、それが良い結果をもたらすかどうかも不明なのだ。自分でも分からない事に脅しでも何でもなく、忠告しているだけにすぎない。
「ならそれはマンティコアが作ったかその知識の恩恵でもあったか、ということか」
「まあ、そんなとこ」
マンティコアが自ら“亜神”と名乗ったこともバラダーはベイルより報告を受けている。その亜神とただならぬ関係にあるアイシャ。本人すら他言することが躊躇われるほどの。
(その結果が遊びの延長の水鉄砲とは。威力だけでいえばとんでもない武器だぞ)
「まあ、バラダーさんも気づいているんだろうけど、致命的な欠陥があるのよね、これ」
「──転移魔石の有効範囲、だな。その距離はせいぜい10mだとされている。それはエルフの作った最上品でさえ超えられぬ。だから武器としての運用は難しいという事だな」
「その通りね。フェルパちゃんに持たせてあげたいのに残念」
「アイシャちゃん……」
自分のことを思ってくれて引き起こされた騒動にフェルパは胸が熱くなる。
「分かった。その辺りを念頭において考えておこう」
「え? 諦めないの?」
「こちらが手にする事は一旦諦めよう。だがお前がそれを持っている事は把握していて有事の際には使用を願うこともあるかも知れん」
「そんな時が来ても役に立たないよ?」
「なに、水があれば川でなくともよかろう。忘れている訳ではあるまい。夏のプールを作っているのは我らがギルド員なのだぞ。ため池くらいは造作もない。外壁の周りに川を張り巡らせれば塀の上からも範囲内には収まるかもしれんしな」
場合によってはその外壁でさえ、水鉄砲運用のために適度な高さに砲台部屋でもこしらえようか、などとすでに効果的な運用が仮定として打ち立てられている。ただ逃げ回るだけではかわしきれない男、それがバラダーだとアイシャは認めざるを得なかった。




