火を吹く水鉄砲
「今度はなによあれ」
「あ、エルマーナさん。あれは大丈夫ですよ。なんでも水着の素材で作っているだけだとか」
「はあ、あの子が絡むと変なことになるとしか思えないのは偏見なのかな?」
「いえ、それは間違いないと思いますよ。ほら」
アイシャはプールでの遊びが欲しいと思っていた。あまり水に浸かりたい欲求はないが、目の前に娯楽があるはずなのに何もなく漂う人たちを見ていて不安になるのだ。
(何が楽しいのだろう)
単純に暑さを凌ぐためのものでしかなく、この街の住人はそれで良いのだが、アイシャにとっては不思議な光景すぎて気持ち悪いと感じてしまう。
そして作られたのが水着素材を使った球体。いわゆるビーチボールだ。何気に布が空気を逃がさないで膨らんでいられるのは中身が獣の皮膚を加工したものだからだ。もう少し付け加えれば銀狐の毛皮である。
そのボールは水面を滑り、プレイヤーの魔力に反応してその軌道を変えたりする。そして謎ルールによって点が入ればプールサイドに設置しておいた“複数の筒から花火”が打ち上がった。
「ちょっとあれはなんなのっ?」
「た、ただの演出だよ?」
「また魔石がふんだんに使われていたわよ。よく見ればこの間の水鉄砲の流用じゃない」
エルマーナの言う通り花火を打ち上げたのは、水鉄砲を加工し直して筒にし、立てた底面にまたも魔石を仕込んで置いて合図とともに一斉に花火を打ち上げる仕組みだ。
問題はそこに繋がった先の転移魔石の方。
「アイシャ、あなたあの魔石に何を繋いでいたの?」
「転移魔石、だよ?」
「花火は?」
「嬢ちゃん、水に沈めて水が出てくるのは分かる。まあ、それもだいぶ無駄遣いだけどな。けど花火は訳が違う。そこにあり続ける訳じゃないからな」
「企業秘密」
「そんなのが通用する訳ないでしょ? 下手すれば武器や兵器に転用できるのよ」
「エルマーナ……」
「あっ」
エルマーナはまたも失言したと思ったがアイシャの反応は前回と違う。
「あれは遊びだもの。そんな事は考えてないよ。ビーチボールだけでも楽しいんだからそれでもいいかな」
「嬢ちゃん、この件は局長に──」
「いいよ。局長さんがくるなら答えてあげても」
「うん? それなら別に今でもいいだろうよ」
「その時はたんまりと請求するもの。国が傾くくらいに」
アイシャにしては珍しく静かな、そして何か強い意志を感じさせるトーン。
「──局長相手に商談しようってのか!」
「ううん。商談を持ちかけるのはそっち。秘密だもの、私個人の。もしかしたらその先に人面犬がいるかも、だけど」
「脅しか?」
ベイルの眼光が鋭くなる。
「ううん、私の命乞い、かな」
「嬢ちゃんの?」
「知られるわけにはいかないのよ。誰にも」
別にマンティコアをけしかけるつもりもないし、知られたところでアイシャが死ぬわけでもない。
堂々とあそこで実験したのも、あえて見せておくことでもしもの時に実際の使用を躊躇う必要を無くすためだ。
自分たちの武力をある程度高めておきたい。フェルパを危険にさらし、ギラヘリーでもみんな苦戦して無力さを感じた。
戦えないフェルパに戦いたくないアイシャ。そうでなくともみんなまだ子どもといえる歳。この世界ではじきに大人の歳とはいえ、あんな場面がたびたび出てくるなら──無関心で無関係でいるなんて出来ない。
戦力強化にしても守るにしても、道具で出来るなら手元に置いておきたいし、それで仲間たちを守ってみせる。
他に渡れば無くなる程度の優位性だけど、今この時ベイルたちの反応を見れて良かった。
「ララバイの誰も死なせたくないから。フェルパちゃんだって、みんなだって──」
真意を知らないベイルたちがどう受け取ったかはアイシャは知らない。
けれどすんなり釈放されて屋台の営業許可も取り上げられなかったことから、アイシャにとって都合の良い方に誤解してくれたのは間違いないだろう。




