チームララバイの初陣
サヤたちをも置き去りにして走り続けたアイシャがやがて森を抜けて開けたところに出れば、先ほど見た横倒しの馬車とうずくまる人々、それと彼らを取り囲む小鬼たちが見えた。
「なんかっ、おっきいのもいるけどそんな事は関係ないよね⁉︎」
アイシャは止まらず走り寄る。小鬼たちにも気付かれるだろうけれど今は助ける事が先決。こそこそ忍び寄ってたりなんかしてたら間に合わないかも知れない。
1番手前の小鬼が走り来るアイシャに気付いたが、その瞬間には矢が小鬼の胸に突き立っている。
フレッチャだ、とアイシャは直感して振り返ることなく襲撃現場に到着する。
馬車の陰になっていたところでは既に2人殺されていて、震えてる生き残りの前でそれを食い散らかす2匹の小鬼。
「悪趣味にも程があるでしょうよ! “ディルア”!」
馬車の側に回り込む事でメンバーの死角に入ったアイシャの遠慮なしの蹴りにボッ、ボンッと首が2つ宙に舞う。
「アイシャちゃん!」
遅れて到着したサヤたちが見た時には既に“アーリン”を唱えて普段のアイシャが生き残りを慰めているシーンになっている。
奇声をあげてそばにいた小鬼がアイシャに斬りかかるがすでにメンバーも到着している。
「アイシャちゃんには手出しさせないのですよっ! “亀甲”」
滑り込むようにして割り込んだカチュワの技能が、アイシャと生き残りの4人を丸ごと亀のような形にせりあがった土で180度ほどを囲み、小鬼の攻撃自体はカチュワの盾が弾き返した。
「“ウォーターバレット”!」
マイムの魔術が小鬼の一匹に着弾する。うめき声とともに数メートルほど転がされた小鬼は胸を押さえて苦しそうだ。
「アイシャちゃん」
「フェルパちゃん。ちょうどよかった、そのぬいぐるみを抱えてこの人たちのそばにいて」
「うん、分かった。でもアイシャちゃんは?」
フェルパに与えたぬいぐるみはその目に仕込まれたお守りのバリアが2度は持ち主を守ってくれる。カチュワの技能と合わせれば安全だと言えるだろう。
「みんなを陰ながら応援するよ」
サヤの剣が小鬼の持つ剣とぶつかり力比べをしている。
「サヤちゃん! 蹴って、脚で押し返して!」
倒れた馬車の上からのアイシャの助言。
剣術ばかりをやっていると、その邪道ともいう動きが頭になくなってしまうらしい。サヤは言われて小鬼の股を思いっきり蹴り上げる。
「うわ〜、あれは痛いだろうなぁ」
うずくまる小鬼をサヤは斬りつけて勝利する。
「なんだろ、今の感触は」
「サヤちゃんは知らなくていいやつだよ」
それを知ってサヤが向こう側(正常)に行くのがアイシャは嫌である。
「“シールドバッシュ”!」
カチュワはその大楯で打撃を繰り出して小鬼を蹴散らす。その大振りに隙ありとばかりにカチュワとサヤに襲い掛ろうとする小鬼はフレッチャの矢とマイムの魔術、アイシャの投げるなま肉が妨害する。
「カチュワにも武器があったらよかったのです」
打撃とはいえ、上手くいなす小鬼にはあまり通用していない。武器もそうだが対人訓練の乏しさまでもがカチュワには苦く感じられる。
「でも守ってくれてるだけ助かるよ!」
サヤはカチュワの盾のおかげでその対応するべき範囲が狭く済んで助かっている。
「それでも、どこまでやれるかは分からないけど」
この場の危機を脱したわけじゃない。小鬼が7匹まだ囲んでいる状態でやけに大きいのが1匹腕組みして睨んでいる。
アイシャたちは生き残りの守り1人、近接2人、遠距離2人、応援1人。
この中央が崩れればあとはもう──




