空に近い景色
「全くぅ……マイムったらとんでもないよ」
アイシャは命からがらに? マイムの手から抜け出して今は木の上だ。確かスキルツリーから手に入れていて、やった事ないのがあったはずと思い出して、その結果木と木の間に渡したハンモックに揺られている。
地上にはワラワラと動く人たち。空には太陽が輝きここからでは遮るものは少ない。寝るには普通は辛いところだが、アイシャのお昼寝士適性というのは“日中の明るいうちに寝ていること”に愉悦を覚える側面がある。
束の間の小休止だったりストレスからの解放や現実逃避。つまりは前世で安らぎをくれた時間というのがそこにちゃんとあってアイシャを幸せな気持ちにしてくれる。
気づけば日は傾き地平を赤く染めている。
アイシャは夕陽が照らす彼方を双眼鏡でのぞいてみる。
(この高さからはさすがに良く見えるね。西の海に沈む夕陽も綺麗だし、あっちは緑の平原ね。あの辺りの赤いアレはミニカーズくんの破裂した跡。私たちが逃げ惑っていたあたりかな?)
アイシャはそこから馬車の轍を辿って顔を下に下に向けていく。そうすればいずれは自分たちのいる森にたどり着くことになる。
やがてその通りに森の入り口にまで視界はやって来たのだが、その手前で横倒しになっている馬車とそれを囲む小鬼たちが見える。馬車のそばでは固まっている人たち。
「あれ? アイシャちゃん、何で上から? 木登り?」
急いで地上に落ちるようにして降りてきたアイシャはサヤたち5人と出会う。
「ベイルさんはっ?」
「エルフたちと森の奥。アイシャちゃんあたしを捨てて男に走るのね」
ある意味普通のはずなのに相手があの筋肉だというのは受け入れられない。否定したいアイシャだけどそれよりも──
「それじゃ間に合わないかも知れない! 森の外で人が襲われてる! 助けにいってくるからベイルさんによろしくっ」
アイシャはそのまま走り始めたが、その後ろからはみんな付いてきている。
「アイシャ1人が行っても、変わんないでしょうっ! 私たちもいくよ!」
フレッチャが走りながら叫ぶ。他のメンバーもそうらしい。
「けど誰かがベイルさんに伝えて欲しいんだけど! ……あっ、ショブージくん! おーい!」
先ほどまでフレッチャに弓を仕込んでいたオネェエルフがいるのを目敏く見つけたアイシャ。
「ベイルさんに森の外に来てって伝えておいて! よろしくね!」
アイシャの伝言では全く足りないがそこはリレーのようにして後続が伝えていく。
「なんでっ、アイシャはあんなに速いんだ! 引き離されている!」
「アイシャちゃん、よく逃げるのに走ってたから、それでかも」
教師からクレールから、バラダーやベイルからも。
「俊敏だけは実はAなんじゃないかあれ!」
しかしフレッチャの愚痴は森の外に出て程なくしてたどり着いた現場で、魔物の集団に1人飛び込むアイシャを見てどうでも良くなった。




