他人から受ける魔力の感じは
フレッチャの弓を構えた姿というのはとても綺麗だとアイシャはいつも思う。
朝早い練習場ではアイシャとフレッチャにエルフの3人だけだ。
フレッチャのその背中に、肩に肘、手を包んでみたり腰に当ててみたり。
そうしてフレッチャに教えるエルフにいつものアイシャであれば、ロリコンだとか女の敵だとか言って投げてしまいそうなのだが、なんとも複雑な気持ちで見守ることしかできない。
「フレッチャちゃん、構えはこう……そう、いい感じね。あとはここをこう、出来ないかしらん? うんうん、いいわよ。そう、じゃああの的目掛けて放って。うーん、惜しいわ! その調子でどんどんイっちゃいましょ。うぅ〜ん、素敵!」
真剣なフレッチャ。真剣なはずのショブージ。
(……症状が悪化している気がする。なんで? でもああしてフレッチャちゃんに教えてればもしかしたら治るかも。ごめん、フレッチャちゃん。未来ある青年のために犠牲になって)
「アイシャちゃん、どうしたの。手なんか組んで珍しく真剣な顔」
「あー、マイムちゃん。ちょっと思うところがあるっていうか。エルフの技術(オネェ化)とか、ね」
「アイシャちゃんにも分かるのね。あのエルフ、フレッチャちゃんの構えたところに魔力を流している。魔族の弓っていうのはそういう事なんだね」
その目で分かるというマイムの特技にはエルフのしていることが薄ぼんやりと映っているようだ。
「あれが魔力なんだね」
(だとするとフレッチャちゃんまでオネェに? でも女の子がオネェになったらそれは……何なんだろう?)
「アイシャちゃんに試してみる」
マイムは思うところがあったのか、座るアイシャの後ろに回って肩に手を置いて魔力を流してみる。
「なんかピリピリする」
アイシャの思うに“電気風呂”みたいな感じだなとその感覚が面白くてマイムの手に触れてみたりする。
「魔力の扱いは難しい。あたしたち魔術士も魔術を行使する時は杖を持って凄く集中する。杖は持ってるだけ。それでも凄く集中しないと出来ない」
「そうなんだ」
ピリピリが楽しくてアイシャはマイムの手の上を指でなぞる。
「それを弓を引きながら出来るのが魔族。とても無理。魔力を扱うのに集中すれば矢は引けないし、矢に集中すれば魔力はピクリともしないはず」
「んっ……」
指先に集中するアイシャは身体がピクリとする“いいところ”を見つけた。
「エルフの助けで放った矢はその威力が違う。精度も上がればきっと……アイシャちゃんがさっきから積極的。もっとしようか?」
そう言って肩に置いた手を滑らせて脇の下から前へと。
「あうっ、ふうっ! “プラネタリウム”っ」
他人には見せられない。そんなシチュエーションに外界との隔絶をもたらすプライベート空間。
「何これ。これも魔術?」
「ま、マイムちゃんが変なことするからっ。誰がやって来るか分からないのに」
「アイシャちゃんが誘った。この真っ暗なのは何なの?」
「み、見てれば分かるよ?」
「教えないつもり? それとも?」
マイムの手は魔力を絶えず流しながらアイシャの鎖骨を撫でたりへその辺りをさすったりとゆったり動かしていく。
「お昼寝士の技能だよ。外から見えないし中からも見えない」
「不思議な技能。そんな事してアイシャちゃん。何をしたいのかな」
首筋に当たるマイムの頬からもピリピリしてピクピクする。右手は腿に沿って動き、左手は優しく撫でまわす。
「でもアイシャちゃんは本当に不思議。これは絶対に魔術のはず。お昼寝士ってなに?」
「それはっ、はぅぅ、私も知り、たいっよっ、きゅぅ〜」
「え? アイシャちゃん、大丈夫? 痺れた? 魔力に当てられちゃった?」
「ううん。すっごい良かっただけ。ふぅ、マイムちゃんは横に座ってて。解除するから」
元の視界に戻った所では変わらずフレッチャが弓の練習をしていてショブージはオネェのまま。訪れた人もいないようだとアイシャは安心する。
「アイシャはなんで顔が桃色なんだ? それになんか汗かいているけど疲れているなら無理に付き合ってくれなくてもいいんだよ」
小休止に入ったフレッチャが気づいて心配してくれる。
「はは、だ、大丈夫だよ? まだまだ」
「じゃああたしとお部屋で頑張ろう。今度はあたしの番ね」
マイムはアイシャの手を取り立ち上がってそのまま引っ張って行ってしまった。アイシャは「ちょっ、ええっ」とは言ったものの身体は素直だった。




