ベイルの提案
「やはりアイシャを連れてきて良かったな」
「あのエルフも何でかは分からないけどアイシャちゃんには意見のひとつもしないものね」
「みんなロリコンなんじゃない?」
アイシャとフェルパがあの時の狐神様の正体だというのはショブージだけの知る秘密ではあるが、そのショブージが女神様と呼ぶアイシャがそれに連なるものだという発想はわざわざ言うまでもなくここのエルフ達は察している。
それどころかマンティコアと対等であると言うのであればその事実だけでいい。ここはマンティコアが支配する森でエルフたちは他種族に追われて住まわせてもらっているのだから。
「エルフって本当に耳が尖ってるのね」
「それに背が高いな。ここでなら私なんかもまだまだ低く見えていいな」
改めてエルフたちを見たサヤとフレッチャの感想はこの森に開拓された集落を散策してのものだ。フレッチャはこのメンバーの中にいるとデカ女みたいに見られそうなことを少し気にしている。
「それでも木をくり抜いて住むなんてことはないんだね」
アイシャももちろん残りの3人も一緒に散策している。
「ここの木は細いのです。こんなのを切り抜いても人は住めないのですよ」
カチュワの正論にそれもそうだと笑う一行。
エルフたちはまだまだ不十分といえる森にあってもかつての生活をなぞるように商売の準備も進めている。
「魔術強化のアミュレット……アイシャちゃん、あたしにプレゼントしたくならない?」
「プレゼントするには少し私の懐では心許ない値段だよ。パンとかにしとこう」
「んむー」
おねだりを失敗したマイムは仕方なく自分で買うことにした。距離の減衰があったとはいえゴブリンに通用しなかったことが悔しいようだ。
美味しそうな匂いに誘われた6人がパン屋のテラス席でティータイムをしてショブージやベイルたちのいるところに帰り着いた頃にははもう夕陽が沈みはじめていた。
「アイシャ、フレッチャ。ちょっと来てくれるか」
宿としてあてがわれたロッジ風の建物。それを2つ合わせて間を渡り廊下で繋いだ片側を女子、片側を男子としているのだが、まだみんなが起きている間はどちらにいても構わない。
アイシャとフレッチャはベイルに呼ばれて男子側の部屋のひとつに入っていく。
「まさか、私たちにイタズラを」
「ちんちくりんにそんな気は起こさねえから安心しろ」
「じゃあフレッチャちゃんを──」
「お前と話すと疲れるな。まあそんなことはしないんだが、2人を呼びはしたものの用があるのはフレッチャだ」
「私に、ですか?」
呼ばれはしたものの、またアホの子アイシャの保護者的立ち回りかと思っていたフレッチャは、ベイルの用事が自分に向けてのことだと知り意外そうにする。
ならアイシャの方が保護者役なのか、と。
「馬車の中でカチュワに剣の提案をしただろ? それに似たようなもので、フレッチャにはエルフの弓を教わらないかという提案だ」




