ゴブモブモブ
アイシャたちの住むシャハルの街は国の西の端に位置する。だから北門から北上して訪れる砦は国の北西にあることになる。高台になっているそこを下ってしばらくいけば国境のある辺り。西にあるスィムバの森の北の切れ目までが人間族の領土で森の西には砂浜が広がりその先はもちろん海だ。
今回侵攻を受けているのはその反対の東にあるギラヘリーの街。その流れがシャハルの街側に、西側に来た場合の懸念であるエルフの協力を取り付けに来たのだが。
「くそっ! 早く森へ入るぞモブ2!」
「ゴブリンって馬にのるんだなっ! モブ1よ」
前回は超ショートカットをしたアイシャだが、砦のある丘から馬車で森に行くには大きく東側に迂回して傾斜を下っていくしかない。
つまりは今現在侵攻を受けているギラヘリーの街に近づくわけだが、それでも距離はまだまだあるはずだ。
「ゴブリンの斥候がこの辺まで来ているということは、やはり攻め入るつもりだったってことか」
「こうして追ってきているのは見つかったのがまずいってことだろ? 後続の応援らしきものまで見えてきた」
「ああ、ビンゴだってことだ。砦は⁉︎」
「距離が遠い! 支援は諦めるより他ない」
「引き連れても行けぬ。森まで行けばエルフとかち合う。モブ1! 行けるか⁉︎」
「馬車と騎馬だ。追いつかれるのは時間の問題だろうモブ2」
「あれがゴブリン──」
アイシャたちも馬車の中からその姿を確認している。
「別名は小鬼ね。亜人種なんて言われているけど立派に魔物よ」
「小鬼ってことは大鬼なんてのもいるの?」
フェルパは馬車の前方側でぬいぐるみをしっかりと抱いている。
「いるさ、大鬼も。そんなのが出てきたなら──どうなるか分かったものじゃない」
ベイルの顔には余裕などない。小鬼でさえ武器を扱い馬を操り弓を射る。先ほどからカチュワの構える盾に何本の矢が当たったことか。
「こうも揺れると狙いが定まらないな。帰ったら安定のない場所での練習が必要だよ」
フレッチャも弓を射かけてはいるが、ゴブリンがかわすまでもなく狙いは外れる。
「あたしがやる」
マイムの操る魔術というのは弓矢ほどには物理条件に縛られてはいない。水球が2つ出来上がれば真っ直ぐに飛んでいく。それは小鬼たちの馬に当たるが濡れたことに顔を振るわせはしたものの、ダメージが通ったとは思えない。
「あの馬も魔物。この距離であいつらの耐性を貫くことはあたしじゃ無理」
魔術という遠距離攻撃に対してはステータスでいうところの精神力が耐性の基本となり、それを高める魔術や道具、防具で魔術攻撃から身を守る事が出来る。
「弓矢も無理で、魔術耐性まである。それに数もこれから増えていくこと間違いなし。もう私が飛び出て行こうか?」
ここで誰かが降りればそれに食らいついて他を逃がせられるかもしれない。
「だめだマケリ。お前が居なくなったら誰が嬢ちゃんたちのテントの監視をするんだ」
「そうね、この子たちはどこでもイチャイチャするからベイルの目の毒よね」
「ま、マケリさん。それは何のことかな?」
珍しくサヤがキョドっている。
「あら? それを聞いちゃう? サヤちゃんは別の意味の冒険者ね」
「や、やっぱりいいです……」
馬車とゴブリンたちとの距離は徐々に詰まってくる。森まではまだ遠い。




