【番外編】アイシャとサヤ 8歳 小さなつぼみたち
「ステータスはその適性に大きく左右されもするが絶対ではない。望めば誰もが剣を持つ事が出来、ペンを持つ事も可能だ」
「お昼寝士も頑張れば闘えるぞ」
そんな教師のフォローも全力拒否するアイシャ。この時のアイシャの頭には“お昼寝士”とは何か。そして好きなだけ寝るのがお仕事というのは新しい人生はなんと牧歌的で素晴らしいものなのかという期待と希望と怠惰な喜びに包まれていた。
「我々人間族は──」
「ギルドカードを手にして──」
「冒険者になれば──」
「スキルポイントの貯め方だが──」
「あのアイシャという子は朝の挨拶までは起きてますけど、授業が始まれば大体寝てますね」
「珍しい職業適性というのがこれまでに無かったわけじゃない。それでもお昼寝適性なんていうのは、正直わからん」
「丘の休憩所に案内して『1人で』と伝えた時にあの子喜んでそのまま寝ましたからね。共通座学を寝て、そのあともあそこで寝てるんですから、やはりそういう職種なのでしょう」
「ああして寝ててもそれがあの子にとって正しい在り方なのかと思うと──」
「そうでしょうな。あの子については仕方ないことでしょう。しばらくはこのまま様子見でいきましょう」
「サヤちゃんはアイシャちゃんの幼馴染なんだね。アイシャちゃんは昔からああなのかい?」
「うん。みんなで遊ぶんだけど、かけっこしても遅いし木登りしてもゆっくりだし、いつの間にか寝てるの」
実のところアイシャは遊びの中に鍛錬を取り入れていて、その動きに負荷を与えていたからなのだが、アイシャが手に何か持ってようが、木登りを指先だけで支えていたりだとかいうことに子どもたちが気づくはずもない。
「はあ、ずいぶんとのんびりさんなんだね。サヤちゃんは仲良しだから、アイシャちゃんが困ってたら助けてあげてね」
「うん! アイシャちゃんは私が助けるの」
「おお、サヤちゃんはアイシャちゃんが好きなんだね」
「えへへ、そうなんだよ。でもアイシャちゃんには内緒だよ」
「うんうん、内緒だねぇ」
大人から頼まれて“好き”という言葉のニュアンスの違いも子どものサヤの中で分別があるわけもなく、しかしすでにこの時にはサヤの中には花開く前のつぼみが存在してもいた。
その適性から放置され続けてアホの子はアホの子のままに、アイシャの事を、と頼まれて真面目なサヤはそれまで以上にアイシャに構うようになりいつしか淡く甘酸っぱい想いを幼馴染に抱くようになる。




