リリーの花束
「ああ、今日はちゃんといるんだな」
お昼寝館にやってきたベイルはアイシャを見つけて声を掛ける。
「私はいつもここだよ。たまにお出かけしてるけどね」
「なるほど。で、だな。あー、局長がちゃんと確認しておけって言うもんだからよ。あれで良かったんだよな?」
「うん! 助かったよ、ありがとうって伝えといて」
「まったく、ヒヤヒヤしたぜ」
「私もだよ」
もしサヤが止まらずにアイシャの名前を出したらと思うと、それぞれにブルってしまう2人。
「それで、用事はそのことだけ?」
「いや、もちろんそれも大事なんだが。嬢ちゃんには俺と一緒にエルフの所に行って『もしもの時』はエルフがこちらに協力してくれるように取り付けて欲しいんだ」
「そんなことあの森に住まわせる時に約束させれてないの?」
「試みているさ。けれどその時の状況によるとしか言わねえし、マンティコアの事もある。そこで詰まって進まないなんて出来ねえから、まだ保留にしたまんまなんだ」
「なるほどねぇ。でもそれこそ私じゃなくてベイルさんたちだけで良いんじゃ?」
「分かってねえな、嬢ちゃんは。あいつらの信仰は嬢ちゃんにこそあるんだ。人間族に対してのものとは違う。逆らう余地などない信仰がだ」
「それはなんとも気持ち悪い話だよ」
「こればっかりは諦めな、嬢ちゃん」
「はっ、はっ……」
「あ、カチュワちゃん」
「おまた、せなの……や、やっぱり今日は──」
お昼寝館を訪れたものの、ベイルの姿を目にして踵を返すカチュワをアイシャが素早く捕獲する。
「なんだ? 新しいお友達か?」
「この間いたでしょ? 洞窟から帰って……そっか、ギルドの外で別れたっけ」
「あー、じゃあクレールたちで助けたっていう子か」
「あのっ、はじめましてカチュワなのです」
「そうだベイルさん、カチュワちゃんも連れてっていい?」
「まあ、そいつは構わねえが。うん?その盾……」
「ベイルさん。この盾に関わると悪夢を見て病院送りになっちゃうからね」
「う、嬢ちゃんが言うと何かありそうで怖えな」
「それで、結局これか」
次の休みの日にと決めて集まった当日。
ギルドの前にはアイシャとカチュワ。それにサヤとフレッチャとフェルパにマイムの6人が集まっていた。
「引率よろしくお願いします!」
「まあ、構わねえが。もしかしてお前ら卒業してもそのままパーティ組んでいくつもりなのか?」
「え? パーティ?」
アイシャには聞きなれない単語がベイルの口から出てきたわけだが。
「もちろんですよ。みんな冒険者志望ですからっ!」
アイシャの肩を抱きサヤが高らかに宣言する。
「んなん⁉︎」
「フェルパもアイシャちゃんがいるなら」
「あたしは魔術士ギルド。だけど所属はチーム“ララバイ”」
「なにそれ⁉︎ 知らない単語が出てきたっ?」
「気の抜けそうな名前だけれど、リーダーの事を思えば納得だと賛成しておいた」
「フレッチャちゃんは何に納得したのかな? お昼寝士は戦えないよ?」
「カ、カチュワが守るのです。だから大丈夫なのですよ」
知らぬはアイシャばかり。他の子たちの間ではしっかりと打ち合わせされていたらしい。
「女の子ばかりのチームか。欲を言えば力自慢の前衛も欲しい所だが」
「それなら俺が──」
「ロリコンはお断りっ!」
ベイルはクレールを推そうかと思っていたが、その本人の立候補はアイシャによって放り投げられた。
「まあ、リーダーの意向がそうなら仕方ねえな」
ベイルはわっはっはと笑うが、つい反射的に動いてしまったことで、自らに決定権でもあるような振る舞いをしてしまい、チーム結成を確定的にしてしまったアイシャはしばらくの間、呆然としていた。
物語はやっと長い日常的なところから冒険の入り口へと。




