【番外編】夏の夜の星たち
あの巨大銀狐がなんか凄そうな生き物だとかは正直どうでもいい。アイシャにとっては“プラネタリウム”はお昼寝にも演出にも良いと喜んでいたのに、使えばもれなく覗き被害に合う諸刃の剣であった事のほうが問題だった。
任意で発動出来て、その範囲もある程度まで思いのままだ。
1人お昼寝用でも教室丸ごと包んでお漏らしさせたりとか。
「ひとの事を覗くとかまるであいつじゃない。あの影みたいな奴」
アイシャを助けたのかも知れないけれど、プライバシーも何もあったものじゃない。あの影はアイシャの動向をおおよそ把握してありそうだ。
「焼きそばひとつ」
「あいよ!」
そんな考え事をするのは街の夏祭りの屋台で焼きそばを売りながらの事だった。
「フェルパちゃん、夏の訪れを祝うってなんだろうね」
隣ではフェルパがお手伝いをしている。
夏祭りと言っても夜の光虫を眺めて物思いに耽る日というくらいのものだ。アイシャの他に屋台など出している者はいない。けれどもこうして客がいるということは、来年以降は真似をする者も現れるのだろうか。
「季節には神様が関わってるらしいよ。夏の太陽が眩しいのはみんなにエネルギーを降り注いでいるからだって」
「そして実りの秋、か」
「だねー。あ、いらっしゃい」
フェルパが挨拶して迎えたのはサヤたちで、夏祭り特有の緑と青のグラデーションの貫頭衣みたいな服を着ている。未熟なボディラインが隠れているようでうっすらと分かるかのような服だ。
「こんなところでも屋台なの、アイシャちゃんは」
「へいらっしゃい」
「じゃあサヤと2人分もらおうかな」
「へい! まいどぉっ!」
「アイシャちゃんて屋台の時はやけに声が野太くなるよね」
「だっしゃあぁぁぁっ! おまちどうっ!」
「こんなに好き勝手していてもいいんだね」
「そんなのアイシャちゃんくらいだよ」
フェルパは別にアイシャ信者ではない。言うことは言うのだ。ただアイシャが好きすぎるだけで。
「この世界は平和なの? 平和じゃないの?」
「聖堂教育では人間族は魔族の脅威に晒されているって言っていたけど」
フェルパはそこで区切って
「どうなんだろうね」
とまるで夜空に語りかけるように言う。
(あの星たちにあいつらが居るわけじゃないよねさすがに)
夜空の綺麗な星々が自分たちを覗き見ているような錯覚を覚えるのはやっぱりそれでもプラネタリウムを使いたいという欲求なんだろうなとアイシャは思い、しかし巨大銀狐の期待通りになんてならないとも誓うのだった。




