悪い子は……大人ver
「そういえば例のお昼寝士のところにカチュワさんが居ましたね」
「みたいですね。盾使いは子ども受けしないからいつも1人でしたけど、少し安心しましたね」
「まあ、それもあの“おねんね姫”が相手では安心していいものか分かりませんがね」
「そのカチュワさんなんですけど、朝に盾がなくなったって聞いたのですが他に知ってる方いませんか?」
「……。」
「子どもがあちこちに行くと置き忘れなんてのもありますからね。まだ様子見で良いのでは?」
「そうですね。僕も念のため空き教室も含めて探してみますが、皆さんも巡回で見つけたら教えてあげて下さい」
教員たちは昼休憩を終えて職員室でミーティングをしていたようだが、その会話を聞いていた影が窓の外にあったことに気づいた者は居ない。
ガチャ、カチンッ。
扉の鍵を開け、中に入った彼は後ろ手に扉を閉めて再び鍵を掛ける。
「あそこで否定するのは流石に怪しいですから。仕方ない、どこか別の隠し場所を探しますか」
その部屋の片隅に置かれた大きな盾は、まさしくカチュワのものであった。そして盗み聞きをしていた人物はその彼に気付かれずに既に部屋の中に入っている。
「何だ。何故真っ暗になる。これは、どういうことだ」
外はまだ明るいこの時間に隠蔽工作を急ぐ彼は突然視界を失ったかのように闇に包まれて狼狽える。
そして灯る光の粒。彼は光を数え、追いかけ、やがてその中に浮かび上がるシルエットに気づいた。
「君は──この教室は立ち入り禁止だよ。早く出なさい」
そう言って彼は自分が鍵を開けて入り、また鍵を閉めたことに思い至る。
その人影は頭に耳を生やしているような形で、朧げに見えてきたのは狐の面を被った不審者。何故か白衣に緋袴と足袋で草履という出立ちは『彼女』の趣味が先行して間違ったものをクラフトした結果だ。
『そこな者。その盾の由来を知っておるのか』
彼は息を呑むだけで答えない。
『ここに浮かぶ“目”が全てを見通しておる』
その言葉に彼はもうここの光が無数の目に見え、鼓動が早くなる。
『我はその遣いである。大人しく開け渡せばよい、さもなくば──』
巫女装束の人物はおもむろに面を外してみせる。狐の面の下には世にも恐ろしき人面の獣の貌があった。
「ひええええええええ」
ガクガクと震えジョババババと黄色い液体を垂らしてその教師は失神してしまった。
(リアクションはウザいいんだけど、まさか漏らすなんて)
以前、バラダーをアイシャに案内した教師はガクガクと震えたのちに意識を手放し、夕方に巡回しにきた別の教師に助けられたが、「私は監視されている。白と赤のマンティコアが来る」などと繰り返し、夏の訪れる前に長期療養で去ってしまった。
「カチュワちゃん、起きて」
「ん……んー。おはようなのです?」
「……」
「どうしたのですか?」
アイシャはうつ伏せから身体を起こすカチュワの羨ましい体型に(いつかはきっと……)と心に誓っていた。
「カチュワちゃんの盾が見つかったからって、ほら」
「わあ! アイシャちゃんありがとうなのです!」
カチュワは戻ってきた大楯に頬擦りしている。そんなに質感良くない盾に顔を擦りむかないか不安になるアイシャ。
「あれ? アイシャちゃんは着替えたのですか?」
「まあ気分、かな?」
「ふうーん。あ、なんなのですこれ。うわ、気持ち悪い。けどこっちは何だか可愛いのですよ」
「それはお面だよ。良かったらカチュワちゃんにあげる」
「いいのですか? じゃあこっちを頂きますのです」
アイシャはカチュワの頭に後ろ向きにお面をつけてあげる。
「んふふ〜」
笑顔の戻ったカチュワ。アイシャはマンティコアを象ったお面を手にして
(人面犬は気持ち悪いってさ)
勝手に作られて勝手に非難されるマンティコアだった。
子どもver.は初期にアルスとやった小競り合いですね。大人の方には半端な手出しは難しいのでホラー要素とプレッシャーが主となりました。のちのち別の面倒を引き起こすきっかけとなりますが大切な友だちを守る為ならこういう悪さもしちゃうアイシャちゃんでした。




