カチュワとの交流
それからはカチュワはアイシャのお昼寝館に通うことが多くなった。
最初こそアイシャのことを甘く見ていたカチュワであったが、丘を転がされてからはなんだか妙に硬い尻尾を2本操るアイシャは侮れる相手ではない。そう思うようになった。
しかしその訓練は2人だけの秘密とし、アイシャが中断すると言えば即やめて、そうしたときには必ず誰かの訪問がある。
アイシャと仲がいいと言うカチュワがいても巡回の教師はそれを咎めはしない。カチュワも同じくひとりで過ごしているのを知っていたから、その2人がひと所に居るなら別にそれはそれで良いのだ。
けれどそんな日々が1週間ほど過ぎたある日。カチュワはこの日の午前中、1度もその姿を見せなかった。
(まあ、そんな日もあるよね)
ここへはアイシャが無理に連れてきたようなものだ。本来のカチュワの過ごし方というのもあるはず。もしかしたらちゃんと同じ適性の同志と訓練出来ているのかも。それならそれで良いとアイシャは思い、少し振りの午前中のお昼寝を堪能した。
「あれ? カチュワちゃん?」
お昼をサヤと過ごして戻ってきたお昼寝館にはすでにカチュワがいた。しかし何故か盾は持っていない。
「アイシャちゃん。ごめんなさいなのです」
「んん? いきなりどうしたの?」
アイシャはカチュワの隣に腰を下ろして何を謝るのかと聞き出す。
「アイシャちゃんからもらった盾を失くしてしまったのですよ」
「あんな大きなのを? 逆に難しい気がするけど」
アイシャは単純に疑問に思っただけだ。けれどその言葉にカチュワの視線は揺れて涙がこぼれてくる。
「ご、ごめんなさいなのです。昨日──帰るときに疲れたから置きっぱなしにしたら失くなってて」
「それって盗難? 先生には言ったの?」
カチュワの視線はアイシャには向かず下の方へと逃げるようにして離れていく。涙は一滴ずつ溜まっては流れてを繰り返す。
「せ、先生には言ったよ。だけど『そんな高価なものを持ってくるから──』って一応探しとくなんて言われたけど」
「高価な?」
アイシャはカチュワに盾の本当の素材については教えていない。おかげでむしろ強個体さえランクDでしかない岩トカゲの盾だと思っている。
カチュワの視線の揺らぎはどこかで見たことあるな、とアイシャは思う。そんな気がするのはきっと前世だ。
この子は心当たりがあるんだろう。だけれど強くは出れない。でもアイシャにだけは説明しなきゃいけない。大事な貰い物を失くした、と。
アイシャはカチュワの頭を撫でて
「きっとすぐに返ってくるよ。だから今日は──私の訓練に付き合ってよ」
アイシャの訓練と言えばもちろんお昼寝だ。
(今は寝てしまって楽な気持ちになるといい。幸せな夢でも見ているうちにきっと解決しているよ)
そんなアイシャが添い寝をして枕元には“睡眠誘導ぬいぐるみ”のうさぎを置いて、これでしばらくは勝手に起きることはない。
気づけば服が散らかっているのは謎だけど、アイシャはカチュワの服を枕元に畳んでおく。もちろん“見守りぬいぐるみ”も置いて不審者対策もしておく。
自分の服を後回しにしたせいで女の子の寝床に佇む痴女みたいになっているがアイシャは不審者ではないからセーフだ。
服を着たアイシャは、覚えたてのクラフトでお面を作って共通教育棟へと歩いて消えた。




