独りのつらさ
「話には聞いてたのです。でもこんなにいいところだなんて」
アイシャはカチュワをどこかに、と思ったもののカチュワを1人にさせた人たちとかち合うのもと思い、結局お昼寝館へと連れてきた。
「ところで、ここで何をするのです?」
「さぁて、そこよね。問題は」
同じ1人でも、元から同じ適性の同志と呼べる者の居なかったアイシャと、同志が離れていった結果のカチュワでは意味合いは全然違う。
アイシャはお昼寝をこよなく愛し、ひとりでもまあいい。けれどカチュワは1人ではどうしようもないはずなのだ。盾を手に1人。それもあんな暗い部屋で。相手が欲しいはずだろう。
「カチュワちゃんはその、訓練で困ってない?」
「訓練、ですか? それは……その」
カチュワとて分かっている。実際アイシャたちと行っていたレェーヴの森での訓練は楽しかった。サヤに相手をしてもらい、フレッチャのダガーでも練習できた。
「カチュワは、そうですね。相手がいたらなって思うこともあるのです」
「──そう、そうだよね。じゃあ私がその相手になってみるよ」
アイシャはこの聖堂教育の間、いやそれ以外においても戦う姿というのは極力見せていない。間違って戦闘員として数えられたりすればアイシャのお昼寝ライフがなくなってしまいかねないからだ。
けど、その想いとカチュワの境遇を天秤にかけたとき、それも仕方ないと割り切れた。アイシャは守れるのなら守りたいのだ。
それは決して危険からというばかりではない。寂しさや悲しみというものからも手の届く範囲でならば。
「アイシャちゃん、気持ちは嬉しいのです。けど戦えるのですか?」
「ステータスはオールEだけど、なんとかやってみるよ」
「オールE……そんなステータスが⁉︎ 初めて聞いたのです」
「未だに成長してないよ。カチュワちゃんはどうなの?」
「カチュワですか。これなのですよ」
力 B
体力 C
器用 C
俊敏 D
知力 D
精神 C
適性 盾衛士
職業 盾衛士見習い
技能 戦盾術初級
戦盾術中級
「おお、Bとか初めて見たよ。それにちゃんと中級までなってるんだね」
「んへへ。アイシャちゃんたちのおかげなのですよ」
「それはよかったよ。サヤちゃんに言えば喜ぶよきっと」
オールEのアイシャはストレージとは分からないようにベンチの下から取り出したかのように、両手にしっぽ特殊警棒を手にする。
「じゃあ試しにやってみようか」
「アイシャちゃん、オールEの上にそんな柔らかそうなもので」
「まあまあ、とりあえずしっかり構えてね」
仕方ないなぁと笑い構えるカチュワ。貧弱ステータスのアイシャが自分を思ってしてくれるのが嬉しく、倒されてあげようかななんて思って構える。
アイシャはそんな優しいカチュワの盾を遠慮なく横薙ぎに和太鼓みたいに思いっきり叩きつけたものだから──
「あわわぁ〜」
カチュワはいつかのクレールのように丘を転がって行ってしまった。




