手にした技能
「局長。どういう事だったんですかね?」
「分からん。こんな現象は一度も報告されていないからな」
「ベイルぅ? 分からない事は知るところからね。新しいパターンが増えたってことかしら。けれどそれでもそのタイミングは」
「そうだなアイシャを連れて来たからだな」
澱みは謎を残して綺麗さっぱり消えてしまった。
エルマーナはこの一帯には澱みの魔力は感じないという。
手掛かりはもうアイシャしかない。
「アイシャが来たら変化した。やはりお前がなにか知っているのではないか?」
「それはこじつけじゃない? でもま、わかった事はあるよ」
「本当か。それはなんだ?」
「昼間にあれだけ暗かったら寝やすいだろうなってこと」
「まだ頭が痛い」
「真面目に聞いているのにお前が悪い」
「手を出す方が悪いってのは世界共通だよ。悪いのはそっち」
「この鶏ガラめ」
「あっっ、あーっ! 言ったな! 私はそんなにガリガリじゃないし! こことか! こことか! ほらっ! ねえっ」
「アイシャ、はしたないからやめときなさいよ」
歩く4人。街の門が見えて来たところでバラダーは迎えに連れられベイルもエルマーナもそれに付き従う。
アイシャは門をくぐってからは1人夕暮れの街を家に向かって歩いていく。
「あ、アイシャちゃん」
「フェルパちゃん?」
屋台をやっていた広場で佇むフェルパがアイシャを見つけて寄ってくる。
「ど、どうだったのかなって。気になって」
「そうなんだ。ありがとう」
ささくれたアイシャの心に沁みるようにフェルパの気遣いが嬉しい。
「ねえ、フェルパちゃん」
「なあに?」
「技能ってスキルツリー以外からも増えるのかな?」
「うーん。たしかダンジョンの奥まで行ったり、ダンジョンでなら偶発的? に手に入ることもあるそうだよ」
「ふぅーん。ねえ、フェルパちゃん、今日泊まっていく?」
「うん。そのつもりだったの。えへへ」
アイシャにとってフェルパはサヤと同じく仲良く、そしてサヤよりもアイシャの技能について秘密を共有できると思っている。実際マンティコア関連でそうであるし、何よりフェルパがアイシャとの2人だけの秘密というものを大事にするのは知っている。
「まだ夕陽だね」
アイシャの部屋にはオレンジ色の日が射してカーテンでは防げない。
「今日はお母さんもお父さんも少し遅いから、帰ってくるまで寝てようと思うの」
「さすがに明るいけどね。アイシャちゃんとなら寝られるかな」
アイシャがお昼寝士だと理解して付き合ってくれるフェルパはいい子である。
「それでね、見せたいものがあるの」
「見せたいもの?」
「“プラネタリウム”」
途端にアイシャを取り囲む空間──アイシャの部屋が壁も床も天井までも真っ暗になって、フェルパはアイシャにしがみつく。
「なにこれ?」
「フェルパちゃん、じっと見てて」
次第にその黒の中に現れる光点。
「ふわぁ、綺麗」
「見せたかったのはこれなの。スキルツリーにない私の技能。夜の空」
「アイシャちゃん」
「うん」
そのまま2人はベッドに横になりしばらく星空を眺めて眠りについた。




