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SEASONS~紅葉~ 15

 浅見の一つ下の弟、浩人。修也と同い年で小中学校の同級生。幼稚園も同じだった幼なじみだそうだ。

 小さい頃は私を含めた四人で遊ぶこともあったらしい。クラスが一緒だった私はお散歩のときに手を繋いだり、室内遊びの時は絵本を読んであげたりしていた気がする。何分、先程取り戻した記憶なのではっきりとしたことが言えない。そうか、ひろと君は浅見の弟だったか。確か昔は私のことを『さっちゃん』と呼んで懐いてくれてたような……


「兄貴、こんなとこで何してんの」


 6歳の頃の様子しか知らないので、目の前の男子と一致することもなく、あちらも同じ様子でこちらをガン無視してる。すみませんね、こんなところで。


「お前こそなんで」

「企業見学で暫くおじさんの家に世話になるって言ったじゃん。昨日どこ行ってたんだよ」


 就活準備で地元から出てきた真面目な弟さんは、お兄さんに会えなかったせいでご不満な様子だ。弟が来たのに出迎えもせずに外をふらふらしやがって、というお怒りをぶつけているのか。

 私に対する態度は兄貴を返しやがれという八つ当たりか、ご親類から私の悪評を叩きこまれての悪感情からなのか。どちらにせよ負の感情をぶつけられることに慣れ切ってしまった私の敵ではない。


「浅見君の体調も落ち着いたみたいだし、今日は弟さんと一緒に帰ったら?」


 浅見弟は来て早々で悪いが、お引き取り願おう。修也に用事があって家まで来てたなら申し訳ないけれど、見た感じでは兄優先で動いてくれそうだし、私もお客様を相手する体力はもう残っていない。


「兄貴、具合悪いのか!?」


 あの真っ青だった顔色はマシになったけど、寝不足栄養不足の人間は自室で安静にするのが一番だ。タクシーを呼んであげよう。お金がなくとも、下宿先まで帰ればどうにかなるでしょう。


「悪くない。でも、もう帰る。沙世ちゃんに迷惑かけちゃったし」

 よろよろと立ち上がる浅見を支えるために寄る弟君。状況を理解できていない修也が小声で話す。

「何があったの?」

「大学の近くで具合悪そうにしてたから、うちで休んで貰ってた。」

 嘘は言ってない。体調不良の原因を黙ってただけ。それより浅見、昨日家に帰ってなかったのか。野宿はしてないだろうけど、ネカフェや人の家に泊まってたなら体は休まらないでしょうに。

「浅見君の弟さん、何か用があったの?」

 今度は私から質問をしてみると、大したことはないと首を振る。

「明日、学祭を回るつもりだったんだけど、早上がりになったから浩人とご飯行こうと思って。姉さんもどうかなって誘うつもりで連れて来たんだ」

 それどころじゃなくなってしまったね。


「修也、兄貴連れて帰るわ。明日はちょっとわかんなくなったから、電話する」

「いいよ、気にすんなって。郁人さん、お大事に」

 自分の足で立ち、弟の手を借りることなく歩く浅見に心配はないと思いながらも道路まで見送る。

「タクシー呼ばなくて良かった?」

「駅まで出ます。拾えたらそこから乗るんで」

「そう。じゃあお大事に」

 ツンケンした様を隠すことなく、浅見弟は形だけ軽く頭を下げた。


「沙世ちゃん!」


 幾分か力が戻った声で浅見が喋る。


「今日もありがとう。また時間を貰えたら嬉しいです」


 空はもう真っ暗だが、西の空だけほんのりオレンジに染まる。この時間は一瞬で、僅かに真っ赤に見える点があり、瞬きの間に落ちて消えた。東の空は出番を待っていた星が一つ二つと光り出している。

 暗いし寒いし、物悲しい。これから長い冬がやってくる。時間は有限で忙しなく過ぎるが、人の話が聞けないほどに追い込まれてもいない。


「私、元気じゃない人と話すのは好きじゃないの」


 青白い顔は見たくない。力ない声も嫌い。


「元気になったらまた話しましょう」


 だから今日はさようなら。



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― 新着の感想 ―
[一言] やー、まさか、幼稚園の思い出が、浅見Eでは……、という、坪谷さまは(Eにとっての)鬼か……っ! からの、おぉぉぉおぉぉ、紗世ちゃんツンツンからの出れというかなんちゅうか……っという……緩急が…
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