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SEASONS~花火~ 2

 修也と別れて、健全ハーレムに囲まれていた松戸と浅見の元に行けば、そこは食べ物の宝庫だった。ご高齢者の寄り合い場みたいだったテントの下が今は商店街のおじ様おば様そして平均年齢を下げるのに大いに役立っているであろう青年が数名。味見用だの余り物だのサービスだの、いろんな名目で献上されて行く商品に、いつかあいつはわらしべ長者に成りかねんと脳内想像を繰り広げていた。奴なら裸一貫でホワイトハウスに住める勢いだ。

「凄い量のご飯だね」

 道路側に立っている松戸に声をかければ困ったように笑い返す。

「浅見は凄いよ。立ってるだけで人が集まってくるんだから。皆が浅見に親切で、一緒にいた俺までおこぼれに預かっちゃった」

 誘蛾灯ならぬ誘人灯とでも名付けるか。でも松戸のそれはおこぼれなんかじゃなくて、しっかりと松戸宛の物だと思う。

 浅見のアレは特殊な技能と言うか持って生まれた才能と言うか、顔の造りは並み以上。必然的に人の目を惹く容姿だろう。自分に害なす相手じゃなければ人当たりもまぁ悪くない。例外を覗けばファーストコンタクトで悪い印象は与えないとは思う。人は見た目が9割と言う言葉があるように、つまりは人に好かれ易い人間なのだ、あの男は。度が過ぎてて気持ち悪いけど。

 反対に松戸は……正直に言おう。今でこそ中肉中背、顔も中の上、そこら辺にいる男どもより頭一個、もしくは半分は出ている彼だけど、私と出会った当初はまぁ、かわ、かわい……可愛いと称した人に会ったことなかったけど、愛嬌のある豚さん系男子だった。服はLLの上を行く3Lを着こなし、素敵な御尊顔も表情筋の上に付いてしまったお肉たちに隠されてしまっていたのだ、仕方がない。本人も自覚は十二分にあり、満員の電車やバスで注がれた視線の冷たさは未だに忘れていないと話していた。

 ぶっちゃけて言ってしまえば、見た目で判断されて損をしていた部類の人間だ。もちろん中身は変わっていないので心優しく素直で頼り甲斐のある、だけどこちらが面倒を見てあげたくなるようなそんな素敵な人物なのだが、人を見る目と言うのはなかなか磨かれる物ではない。理解を受けないことの方が多かったと思う。

 しかしながら、人生経験豊富な年長者の皆さまには全てお見通しなのか、松戸はご高齢者にとてもモテた。当然恋愛感情などではない。「○○ちゃん、よく来たね。こっちに来てお饅頭お食べ」的な孫を愛でるじじばば感情でのものであり、聞くところによると小学校の頃から家の近所の老人会ではアイドル的存在だったようだ。幼い頃からエンドレスモテ期に突入していたんだね、流石松戸。


 話は脱線したが、つまり今現在手元にある麦茶や炊き込みご飯、おやき、酒饅頭は奴のおこぼれなんかじゃなくて、貴方の隠しきれてない優しさを感じた方々からのお裾分けなんです。

「皆、松戸に上げたいって思って持ってきてくれたんだよ。嬉しいね」

 そんな話をしている横からも、テントの奥からおばあちゃんがビニールの袋を持ってきて松戸に渡してくれた。食べきれないだろうから持って帰りな、って全部袋に入れてくれて、更におせんべいのオマケつき。

「良い人が多いよね。何より修也君の知り合いってことが大きいかな。大人気だよ、修也君」

 うん、ありがたいことに新参者の修也を、息子や孫のように可愛がってくれているのが肌で感じられる。それは修也がどうと言うことではなく、商店街全体が新しい人間を受け入れると言う気持ちでいてくれてるからだろう。傷心中の修也にはとても居心地の良い場所になったのは容易に想像出来る。

 だけど人間って言うのは誰にも彼にも優しく出来るなんてことはない。無償の愛なんてのはごく一部の限られた人間にしか与えられないし、それ以外であればお互い様の分類だ。だけどお互い様と思えるところに来るのだって人と人では難しい。

 修也は助けられたままではなかったはず。持ちつ持たれつで関係性を築き、そこに現れた松戸も回数こそ違えど同じような応酬を繰り返してきた結果の今だろう。

 浅見の場合はわからん。松戸の1/100くらいの程度でやり取りはあるのやも知れんが、あいつの場合はその数千倍の勢いで跳ね返ってくる。それこそ愛情のバーゲンセールを受けてるんじゃないか。もしかしたら駅前のティッシュ配りに近い形かも。



「ねぇ」


 優しくして貰ったら優しくしてあげたい。

 優しくしてあげたから優しくして欲しい。

 心の底で願ってしまう我が侭な部分。

 好きで好きで仕方がなくて。なんでも尽くしてなんでも与えて。

 見返りなんていらない。ただ傍にいさせて貰えれば幸せで、たまに何かが返ってきたら天にも昇る気持ちで更に返そうと頑張って。


 だけどやっぱり寂しくて。

 愛されるより愛したいなんて言うけれど、本音を言えば愛したいけど愛されたい。


「夏休み中、どこか出かけない?」


 私と松戸にはこの夏しかない。

 少し前から分かっていたのだが、この夏が過ぎると私たちにはもう何もなくなってしまう。蜘蛛の糸を辿るような細い繋がりが、プツリと切れてしまうのも時間の問題だ。ならばせめて。

 松戸の表情が消えた。伏し目がちになるのは靴ひもを見ているから。考え事をする時の彼の癖だ。

 私の言葉の意味を考えてくれているのか、ほんの少しの沈黙が続き

「お盆の帰省前なら、きっと空いてるかな」

 顔を上げていつもの笑顔を見せてくれた。


「ありがとう」

 別に遠くに行こうなんて考えてない。ほんの少し二人で話が出来ればそれで良い。電車に乗って少し遠くの街に行って、散歩をして、ご飯を食べて、夕日が落ちる頃に伝えたい言葉を口に出来ればそれで……


―カランカランカラン♪


 ……随分威勢の良い金の音が響いてますね。本部テント隣のくじ引き会場からですか。

 しんみりとした気持ちを吹っ飛ばしてくれてありがとうございました。別に自分に酔っていたわけではないんですが、考えたいこともあったんですよ、私。祭り会場ですんなって?はい、わかりました。私が悪うございました。


「何が当たったのかな?」

 口元がヒクヒクしている気がするが、笑みを浮かべて視線をやれば

「おめでとうございます!一等マリンパーク1dayパスです!」

「沙世ちゃん、松戸!俺やったよー!!」


 二等のアシスト電動自転車良いなぁ。くじ引きって商店街だよりについてる引換券じゃないと引けないのか。修也はきっと持ってないよね、ただの従業員だし。残念。


「一枚のパスで海水浴場、遊園地、水族館全て回れます!」

「混まないうちに修也誘って四人で行こうねー!」

 三等が商店街お土産選りすぐりセット、四等が商店街1000円商品券、五等が洗剤、六等BOXティッシュ……あ、帰りに薬局寄ってティッシュ買って帰ろう。ストックがないと心もとない。

「水着は是非、商店街南通りにあるブティック更紗か、中央広場のヒライスポーツでご購入を!」

「……ハッ!沙世ちゃんの水着!?」


 半袖、膝丈の競泳水着って売ってます?ヒライスポーツさん。


 

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