閑話 弐
*BL要素・近親相姦要素・R-15要素を含みます。苦手な方はご注意ください。
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家に帰ると部屋の中は真っ暗で、兄貴の姿はどこにもない。
「ただいま~って……兄貴?」
玄関に靴はあったのにおかしいな~、風呂かもしんないし、いっちょ見に行ってみよう!たまには一緒に風呂に入るのも悪くないだろ。
一先ずは鞄を自分の部屋に置きに行って……とか思ってたら、なんでだか兄貴は俺の部屋にいた。
「実琴、おかえり」
「うわぁっ!兄貴、ここにいたのかよ!?勝手に人の部屋に入んなって何度も言ってんじゃん」
「ごめんごめん。だけどどうしても実琴に確認したいことがあったんだ」
「何?俺に確認したいこと?」
この部屋真っ暗だな。電気つければいいのに。壁にあるスイッチを手探りで押そうとする。兄貴が動く音がした。
「今日一緒に帰ってた奴、誰なんだ?」
「兄貴、覚えてないっけ?小学校一緒だった秋川だいすけ。卒業の時に北海道に引っ越して、昨日こっちに戻ってきたんだよ」
「秋川……あのいつも実琴にべたべたしてたあの秋川か」
「べたべたって、あれくらい普通だよ」
「異常だ。駄目だ駄目だ、近付くな。秋川とは絶対二人きりになるな」
「兄貴?」
背後から急に抱きしめられた。
「えっ?」
「お前は俺のものだ。誰にも触らせない」
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本を閉じる。
次の本。
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「俺と史也が兄弟だなんて……」
主治医の喜田村先生からの言葉に衝撃を受ける。だって、まさか、そんな。
「史也と瑠衣のご両親は二人が2歳と3歳の時に離婚して、瑠衣はお母さんに、史也はお父さんに引き取られたんだよ」
「じゃあ、俺たちは……兄弟で愛し合っていたのか?」
誰にも言えず人知れず愛を囁き合っていた俺たち。禁断の愛だと寂しそうに笑った史也。男同士は辛いと感じていたけど、更に血の繋がりまであるとなると、もう禁断の域を出てしまっている。
「言い辛いことだけど、そうなるね」
「そんな、嘘だ。嘘だって言ってくれよ……」
史也、史也。ねぇ、史也。俺たちはどうしても結ばれない、結ばれてはいけない運命にあるのかな?
「僕は嘘を吐かないよ。瑠衣、君にだけは正直でいたいんだ」
握りしめている僕の手をそっと開いて自分の手で包んでくれたのは、目の前の白衣の人。
「喜田村先生」
「僕にしておけば瑠衣も史也も傷付かない。僕は瑠衣を愛している」
「先生が…」
俺を愛している?愛してくれている?
「瑠衣!!」
診察室のドアが勢いよく開いた。振り返ってそこに立っている人を見る。
「史也!?」
なんてタイミングだ!史也がここに来るなんて。
「俺とお前が兄弟だってこと、ずっと知ってた。だけど、俺はお前しか愛せない!!」
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再び、本を閉じる。
次の本。
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僕の父さんは本当の父さんではない。
本当の父さんと母さんは僕が小学生の頃に交通事故で死んでしまった。天涯孤独だった二人には親戚などおらず、残された僕は父さんの弟である七緒さんに引き取られた。まだ大学生だった七緒父さんと12歳の僕。
変な親子関係が誕生した。
七緒父さん30歳、僕20歳。
僕が成人した年に、七緒父さんが爆弾を投下した。
「結婚しようと思ってる」
大学時代から付き合っていた彼女がいた。僕を引き取るために一度別れようとも考えたが、彼女が支えてくれたから僕を育てることが出来た。まだ僕は大学生だけど成人しているからこれを節目に伝えておきたかった。僕が就職したら籍だけ入れる予定だ。今度彼女を家に連れて来る。
七緒父さんの言い分に僕の頭は真っ白だった。
今まで二人きりだと思っていたのに。僕と七緒父さんの二人暮らしがずっと続くと信じていたのに。
裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた。
「祐樹?」
その夜僕は
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盛大に本を閉じる。
怖い、怖いよ。もう限界です。ごめんなさい。
タイトルに『パパ』『お義父さん』『兄貴』『お兄ちゃん』『弟』などの単語が入った本を7冊ほどピックアップしてみました。更に『禁断』『アブナイ』『秘密』『ナイショ』と書かれている中であらすじを確認したら12冊がソレ系でした。
……多いね。これくらい普通なの?
目眩がしそうになりながらなんとか堪えて中身を確認した結果、残ったのは虚しさと切なさでした。辛うじて見出だせた救いは義理の父子だったり、血の繋がらない兄弟だったりすること。途中見たのも血縁だと思ったら実は違ったよなんてオチが付いてた。
でも中にはマジモンも多いらしい。フィクションだからなんとか我慢できるけどね。あれ、涙が……
色々見たが、BL世界では(義)兄弟、(義)親子は美味しく頂かれる設定らしい。
思えば遥か昔の私?も似たような話のゲームや漫画を見ていたような、そうでないような……今の私はノーサンキューなんで記憶をなかったことにしておきたい。
私がこんなのを読む羽目になったのも、全てはあのどうしようもない親父のせいだ。
義弟の修也がうちに住むようになって2週間、彼はとっても強かった。最初の2、3日は塞ぎこんで色々と考えている様子を見せていたが、気持ちに整理が付いたのか、外に出さないだけなのかわからないが翌日からは外出もし、数日後には
「バイト先見つけて来た」
と、3駅先のイタリアンレストランの厨房の仕事をゲットしてきた。聞くと高校は専門学科がある所に進学し、卒業と共に調理師の免許を取得したので職には困らないと話してくれた。何はともあれ、早々の社会復帰に安心はしたものの彼の精神状態までは把握しきれていないので自己管理で押しつぶされない程度に頑張って貰いたい次第です、はい。
義弟が頑張るならば私も出来るサポートはして行こうと、数年ぶりに実家に電話をした。大学を出てから連絡らしい連絡などほとんどしておらず、あちらからも前期と後期にある学費の振り込みに関してだけ『入金しました』のメールがあるだけ。
あんなんでも一応親だし、子供に対しての後ろめたさとかあったのかも……なんて思ってたけど、修也の一件があってから考えを改めさせて頂いた。あいつは親という自覚も一人の男である責任も何も持ち合わせてない。
今回の電話が最終確認だった。
宅電なんてものは引っ越しでもしない限り番号が変わることはない。幼少期から使っていて、そらで言える自宅の番号を間違えるわけがなかった。なのに。
『沙世子なんて女、知らないって言ってます』
同じ番号、同じ名字のお宅に電話して、間違い電話になることは有り得ないですよね?
出たのは聞き覚えのない男性の声だった。
『はい、山岸です』
わかり切っていることなのでわざわざ追求する気にもなれず、相手の存在を敢えてスルーすることにした。
「すいません永治さんに替わって下さい。沙世子だと言えばわかります」
あちらさんだって聞かれたら困ることも沢山あるでしょうから、これは私なりの優しさだった。
『どちら様ですか?』
うん、沙世子だって言っただろうが。こいつの耳は飾りか?見えてないからわからないだけで、彼には耳がないのかも。あぁ、納得。
「沙世子です。替わって頂けますか」
早くしてくれ、こっちは忙しいんだ。久々のこの電話だってわざわざ男同士の修羅場に頭を突っ込みたくってしてるわけじゃない。修也の荷物をある程度まとめてこっちに送って貰いたいと言う、義弟思いの義姉が時間を割いてやってることなんだ。着替えとかは買って与えれば良いけど、その他私物やお母さんの遺影とか位牌とか、修也が持っておくべきものだけでもこちらに寄こせと言う直談判をしたいが為の電話だって言うのに。
「知らないわけありません。貴方じゃ話にならない」
『何なんですか、いきなり。失礼にも程があります。変な電話は止めて下さい』
「私は山岸永治の……」
不本意ながら、娘です。なんて続くはずだったのに。
『もう別れたんですから、奥さん面しないで下さいッ!!』
ガチャンと切られた電話は、ツーツーとしか聞こえなかった。
もう別れたんですから?
奥さん面?
……
勘違いも甚だしい。私はくそ親父の奥さんでも妻でもなんでもない。
お頭の弱そうな父親の恋人(推測)に怒りを覚えると同時に、自分の声はそんなに老けているのかと愕然とした。
その後、何度電話しても繋がることはなく、急遽土日に実家に帰省することを決めた5月の終わりだった。
土産は釘バッドで良いかしら




