人穴墓獄6
Side 勇実礼土
旧蓮枝霊園。
以前この地を襲った震災の影響により墓石が崩れ、霊園としての運営が困難な状況にまで陥ってしまった場所らしい。
そのために、墓の中にある遺骨はすべて別の墓に移動され、現在は最低限の管理しかしていないかつて墓地だった場所になっている。
ではこの場所がなぜ心霊スポットとして有名になったのだろうか。
それは、夜になると、白い着物を着た老婆が徘徊しているという噂が起きたことに起因している。
深夜に徘徊する老婆の姿という事でそれがすぐに霊だと分かったそうだ。
この霊園の近くに住宅もなく、深夜徘徊してしまう老人という線もなかったらしい。
そのため、崩れた墓石の中にまだ移動されていない遺骨があり、それが老婆の霊の正体ではないかとすぐに噂が広まった。
という話だそうだ。
今回の俺は特に台本を渡されていない。
ある程度は好きに動いていいと言われている。
それはありがたいような、それはそれでやりにくいような、なんとも言えない気持ちでもある。
俺たちは目的の霊園前に着き、早速動画を撮る準備をしていた。
また、ここは心霊スポットとしてもそれなりに有名というためか、いたるところに落書きがあったりしているため、意外にここを訪れる人は多いみたいだ。
霊園の入り口である門はどうやら件の震災の影響で壊れているようで、そのまま解放された状態になっているから余計に人が入りやすいのだろう。
まぁこんなところに泥棒が入るという事もないだろう。
なんせあるのは墓石とかそんなのばっかりなのだ。
「さて、やってきました。ここがどこだかわかる?」
「いやいやいや、きりちゃんさ。ここってあれでしょ? 結構有名な心霊スポットじゃん。もうなんか寒気するんだけど……」
どうやら早速撮影が始まったらしい。
ちなみに八代は寒気がすると言っているが、俺には何も感じない。
少なくとも悪霊はいないのだろう。
普通の霊はしらん。
だって霊視とかできないし。
「勇実さんはどう? 何か感じる?」
む、話が振られてしまった。
そうだ、台本がないのだから、段取りなんてその場の雰囲気で作られていくのだろう。
とりあえず適当な発言だけしておこう。
「そうだね。一応悪いものは感じないかな」
「ほんとに行くのかよ。見てよ、明かりがないから懐中電灯ないとマジで何も見えない」
そういうと八代は懐中電灯で霊園の先を照らした。
割れたコンクリートの道から雑草が生えており、明らかに人の手が入っていない場所だ。
ここで俺がこの辺一帯を魔法で照らしたら台無しなんだろうなってことは流石に分かる。
以前は勘違いしていたが、こういう心霊スポットへ行くのは、霊という不確かな物が出るかもしれないというドキドキ感を味わいたいのだ。
そう、全部漫画で読んだので知っている。
だから、こういう場所で霊が出るのは望まれる展開ではない。
あくまで出そうという雰囲気が大切なのさ。
だから、とりあえず悪意のある浮遊霊のようなのがいるが、これは事前に祓ってしまおう。
カメラが八代の懐中電灯の光を追っているその瞬間。
俺たちのすぐ後ろにいる霊に魔法を放ちすぐさま祓った。
だが、その瞬間後ろからまるで突風のような風が舞い上がる。
「うぉ! おいおい、今のなんだ!?」
「……びっくりしたぁ! みなさん、わかりましたか!? 急に後ろからすごい風が吹いたんだよ! ねぇ勇実さんも感じたでしょう?」
「え? あぁそうですね。なんなんでしょうね」
そう俺はすっとぼけた。
安心してくれ。動画撮影の邪魔はさせんぜ。
この調子で撮影の邪魔になりそうな霊はこそこそ祓ってしまおう。
俺が感知できた時点で悪意があるのは明確なんだ、問答無用さ。
「動画のコメントもすごい流れてるね。やっぱりわかった!? 八代のパーカーのフードがすごい風でなびいたもんね」
「あぁ、これマジでなんかいるかもしれねぇよ。ずっとさ、なんかこう首の後ろを針か何かで刺したみたいな感覚がしてたんだ」
すまない、八代。
この辺にいた霊はもう祓ってしまったんだ。
今感じているのはただの気のせいだ。
「勇実さんも何か感じますか? 霊の存在っていうの」
「ええ、どんな霊かわかりませんが、何かはいるようです。さぁ先に行ってみましょう」
「えぇ、マジでいくの!? もう十分じゃね?」
「まだ始まったばっかりだよ? ねぇみんな」
斎藤君が持っているカメラに向かって語り掛ける桐也。
心なしかいつも笑顔の斎藤君の顔が引きつっているようにも見える。
というか、斎藤君の後ろにいる拓と呼ばれていた八代のカメラマンも一応裏で回しているようだが、こちらもなぜか顔が引きつっているようだ。
流石にこんな近くで怪奇現象が起きたために驚いているようだ。
本当に申し訳ないことをした。だが、全部あの霊が悪い。
いきなり背後に現れやがって……
「じゃ、行こうか」
「あ、ああ。そうだな」
そうして霊園の中を全員で歩く。
すでに整備されていない霊園であるために、ところどころ墓石の欠片のような物があるのでこの暗さで歩いていると間違えて踏んでしまいそうになる。
公園のように広いその霊園の中を桐也と八代の持っている懐中電灯の頼りない光が淡く地面を照らしている。
それにしても随分静かだ。
近くに木々もあるんだし、この時間なら虫の声なんかが聞こえてきそうなものだ、そう思っていると八代が不意にこう言い始めた。
「――なぁ」
「ん? どうしたの八代君」
すかさずカメラマンの斎藤は八代の前に回り顔を映す。
すると八代は少し震えながらこう言った。
「なんかさ急に肩が重くなってきた」
「……え、本当に?」
そういって桐也は周囲を見渡した。
当然俺たち以外に誰もいない。
「大丈夫? 勇実さん何かわかりますか?」
「そうだね」
ふむ、霊感があるというのはあながち嘘ではないらしい。
八代のすぐ横に現れた霊を魔法で拘束していたのだが、それに気づいたようだ。だが、感じるだけで見えるわけではないらしい。
恐らくは栞や利奈よりも霊感は低いのだろう。
だから、大きな口を開け、血走った目でこちらに笑いかけているこの女の霊は見えていないようだ。
今もすぐ八代の顔の横でまるで嚙みつかんばかりに顔を近づけようとしている霊をただ俺の魔力で強引に拘束している状態だ。
「八代さん、目を瞑ってください」
俺はそう言って八代の前に立った。
俺の真剣な顔を見て、八代はうなずきながら目を瞑り、少しうつむいた。
さて、カメラがこちらを向いているからへんな魔法は使わないでおくとするか。
俺の除霊が霊能力じゃなくて魔法を使っているというインチキってバレたら大変だからな。
ネットの世界は怖いのだ。
そんなことを考えながら右手に魔力を集中させ、八代の右肩部分の近くをなでるように祓う。
俺の魔力がこもった腕に当たり、またしても風が吹きあがる。
えぇいこの辺の霊は祓うとこうなるのか?
先ほどよりも弱い風が舞い上がり、この女の霊は最後俺を睨みつけたまま消えていった。
「どうです? 軽くなりましたか?」
「――ッ! す、すげぇな。あんた……」
「い、勇実さん! もしかして今のは!?」
「ええ、何か霊が憑りついていたようです。ですが、祓ったのでもう大丈夫でしょう」
俺はそう言いながら笑いかけた。
今までの流れを見て桐也はとても興奮した様子だった。
「す、すごい。皆さんみました!? こう勇実さんが手を振った瞬間、風がまた起きましたよね!? あの速度で手を払っても髪とか服がなびくほどの風なんて出ないよ!」
そう桐也は斎藤が持っているカメラに向かって身振り手振りで俺の真似をしながら説明していた。
こうして一回目の肝試しは終了した。
ちなみに老婆の霊はいなかった。いたのはよくわからん霊ばかりだったな。
最後に、それぞれ感想を言って撮影は終了した。
「びっくりしました。今まで数々の心霊スポットに行ってきましたけど、こんな現象が起きたのは初めてかな! 八代君はどうだった?」
「いや、マジで怖かった。実際ほんとにあの時は肩が重くてさ。やべぇ、どうしよって思ったんだよ。これ撮影終わったらお祓いいかないとなって思ってたんだけど、いや勇実さんマジですげぇな」
「ははは、ありがとうございます。祓うだけなら得意なので任せてください」
「いや、本当に勇実さんが居てくれてよかったよね。あ、一応みんなに言っておくけど、遊び半分で心霊スポットにはあまり行かない方がいいかもしれないです。まぁこうしていつも行っている俺たちがいう事じゃないんだけど、いつも行った時は必ずお祓いもしてるので、本当に興味本位で行くのはお勧めしないです。もしそれでも心霊スポットへ行ってみたいっていう人は今回の動画の概要欄に今までの俺たちの心霊スポット探検の動画のリンク載せてるのでよかったらそれみて満足してもらえると助かります! それではまた明日も同じくらいの時間にライブを行いますが、次は八代君のチャンネルでやるので同じくこちらも概要欄にチャンネルのリンクを貼っておくのでぜひ、みなさん明日も来てください! あ、それと今回同行してくれた勇実さんの事務所のSNSのリンクも貼ってあるからよかったらそっちも見てね。それじゃ、待たね!!! ――はいお疲れ様でした!!」
「おつかれーってか勇実ってマジモンの霊能者だったのかよ」
こやつ信じておらんかったのか。
「だからそう言ってるだろ? なんで信じないんだよ友樹はさ」
「いや、信じられるわけないじゃん」
そういうと二人はすぐにスマホを取り出した。
何をしているのかと思えばさっそく何かを呟いているようだ。
俺も何かした方がいいのだろうか。
よくわからんから、お疲れ様でしたって投稿した。
もっともこの勇実心霊相談所のアカウントのフォロワーの数はたった数人しかいない寂しいアカウントなのだが……
「それにしても今回の動画はすごいね。同接4万人いってたよ」
「あぁ、こりゃ明日も楽しみだな。……今度はでねぇといいんだけどよ」
そうか、明日もあるのだ。
っていうかまた車かぁ。
そうして俺は翌日驚愕することになる。
たった数人しかいなかったフォロワーが一晩で数万人にフォローされたという事実に。
通知が多すぎてバグかと思ったぜ。
でも俺が最後に呟いたのって『ポッキーうまい』なんだよなぁ。大丈夫だろうか。
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