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業の蔵19

 中沢愛は厳しい家庭に育った。塾に通い、家では宿題を行い、常にテストの点数を両親に報告し、平均点以下の場合は勉強の時間がどんどん増えていく。

 同級生が遊ぶ中、机に向かう時間が多かった。その時はそういう生活に違和感を感じていなかった。だが変化が起きた。それは霊力という力の発現による世界の変化。


 愛は霊力に恵まれた。異例の速度で世界は霊力という未知の力を受け入れ次第に愛の両親さえ、勉学というステータスよりも、霊力の方が進路が有利になると分かるとすぐに星申学院高等学校へ入学が進められ、愛は奇跡的に合格する事ができた。地方に住む愛は学校の近くの寮へ住み、そこで勉学と霊力を伸ばす事に努めた。





 だが、そんな愛に1つの出会いがあった。





 それは同級生が持っていた1つのゲームだった。





 高校へ行くまでの間に触れる機会のなかったゲームというものに愛は魅了された。特に愛が好んだのは最新のゲームではなく、ドット表現が全盛であったRPGゲーム。娯楽研究部という部活に入り、何故ゲームがここまで人を魅了するのかを知りたいと考え、熱中した。そうした充実した学生生活を続けていたのだ。






 だが3年生になり1つの問題が立ちはだかる。




 愛はゲームに夢中になってしまったため、学業の成績が落ちてしまったのだ。愛は焦った。必死に勉強を頑張った。だが霊力を伸ばす努力を愛は怠ってしまっていた。







 だから求めてしまった。――――簡単に霊力を上げる方法があるという事に。








「霊力を上げる方法を教えてあげよう」







 斑模様の髪の男はそういった。







「いいかい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」




 なぜ霊を倒すと霊力が上がるのか。改めて問われると愛も困る。ゲームと同じだと思い疑問にも思わなかった。



「霊を倒すとその霊力を吸収できる……から?」




 愛がそう答えると斑模様の男はおかしそうに笑みを浮かべた。




「ふふふ。そうだね、一般的にはそう言われている。でも少し違うんだ。いいかい本当の事を教えてあげる」




 そういうと斑模様の男は顔を近づけてゆっくりと話し始めた。





「霊力の強さは、その人の持つ業の強さによって決まるんだ。業、そうだね欲望、渇望、羨望、そういった人を妬み、恨み、嫉み、そういったマイナス感情が強い人は霊力が強い傾向がある。そして霊を祓う事によってその霊が持つ業が吸収されるんだ。祓った者へね。そうして業を蓄えていくんだ」

「業を集めれば霊力が強くなる……ってこと?」

「ああ。誤解しちゃうよね。違うんだ。そうだな、簡単に言えば業をいくら蓄えようと霊力という蛇口の器が小さいと必然排出される霊力は小さい。だから霊を祓い、業を蓄えることで霊力が刺激され成長が促されるんだ」





 そう言うと斑模様の男は愛の肩に手を置いた。


 

「い、いたい」



 肩に指がめり込む。



「でもね。僕からすると大切なのは霊力なんかじゃない。霊を祓う事によって業を蓄えるという点だ。ただでさえ多感な思春期の子供は業を蓄えやすい。それに加え霊を積極的に祓う君たちの学校は本当に素晴らしい。ぜひ、欲しい。君の業が」



 そういうと愛の頭に男は触れる。もう愛の身体が動かない。




「ふふふ。君たち学生はいいよね。黙っていても業を蓄えていく。まるで庭にある蔵へ荷を入れるかのように。ああ、だけど今日は特別だ」

「と、特別?」

「そう特別。本来はこのまま()を貰って終わりなんだけど、今日は面白いものが手に入った」





 男の視線が横を向く。それにつられるように愛の顔が同じ方向へ向いた。そこには――赤い水槽がある。






 脈動する赤い泥のような宝石のような、生き物のような、そんな不思議な球体。




「あれは呪星っていうんだ。なんだったかな、()()()()()()()()ための呪具なんだってさ。名前からすると呪いの星って感じだけど違うらしいよ星を呪うんじゃなくて、呪いを星に与えるってのがまた妙な所だよね」




 心臓のように鼓動する赤い物体。それから目が離せない。




「この本来は星に与えるべき呪具を、特別に君に与えよう。うん、そうだね、脳を交換してみよう。きっと面白くなる」




 痛い。赤い。黒い。汚い。痒い。痛い。赤い。黒い。汚い。老い。痒い。赤い。呪い。奪い。血。音。星。渦。力。禍。根。花。実。星。



 情報が流れる。根が伸びる。血液の中に何かがはい回る。脳が疼く。脳が痒い。脳が痛い。脳が赤い。脳が黒い。身体は穢れ、老い、不協和音が耳に残る。力を奪い、蓄え、与え、命を。







「敵は倒されたと表記されるのに、味方が死ぬときだけしんでしまったって書かれるの」




 


「これってどういう意味なんだろうね。魔物は倒せ、魔王は倒せ、敵は倒せ、そうゲームで指示を出す癖に、敵は死なない。でも味方は死ぬ。この矛盾ってどう思う」






「たまに思うの。死亡イベントが流れても味方は何度も死んで生き返っているんだから教会に行って生き返らせればいいのにって」







「蘇生呪文とか、蘇生アイテムとかあるんだよ。それでもイベントで死ぬNPC相手に使わない。何かあるのかな。メタ的な理由以外で。わたしそれが知りたいの」








「わたしが思うに、勇者はたくさんいるんだと思うの。死んだ勇者は棺桶に入り、蘇生アイテムを使われた時に別の勇者が誕生してるんじゃないかな。同じ容姿、同じ性能、同じ考えを持った勇者が死ぬ度に生まれてるんだと思うの。だからNPCに蘇生呪文も、アイテムも使えない。ようは世界の異物なんだよ、主人公たちって」







「面白いよね。主人公になりきるロールプレイングゲームでわたしたちは何度も死んで、何度も生まれ変わる。何か思想があるんじゃないかなって想像しちゃうんだ」





「人は虫のように湧く。放っておけば増えていく。そして搾取して進化する。寄生虫のようなものだ。何度殺しても、何度も生まれて増える。――ならいい加減こちらが搾取してもいいと思わないか」







 若い女性の独白から段々と年老いた女性の声へ変わる。脳が痒い。身体に根が張る。血を、肉を、魂を犠牲に花が咲く。







 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。









「あああああああああああッ!!!」





 











 








「あはははははは!! 素晴らしい! いいな、狙い通りだ!」



 とあるビルの屋上。そこで高齢の女性が笑っていた。




「身体に力が漲る。乾いた砂に水が与えられるかのように! 血が流れる感覚、そうだ。失った力を今取り戻している!!」




 車椅子に乗っていた老婆はゆっくりと立ち上がり、干からびた手を天に伸ばす。皮膚が垂れ、骨が浮き彫りになり、まるで枯れ枝のような身体。




 それが変わっていく。枯れ枝のような身体に少しだけ赤みが差し、渇き垂れた肌に少しだけ張りが戻り始めていく。深い皺が刻まれていた顔が少しずつ活力を取り戻し90代にしか見えなかった老婆が今や60代程度に見える。




()()である私の回復を優先させてもまだこの程度か。やはりまだ足りぬ。梨央には悪いがもう1つ程度は日本に呪星を与える必要がある。そうしなければ()の力は尽き、滅ぶしかない。人間は憎いが今は必要だ。そうだ、今まで散々私から搾取したのだ。立場が逆になっても文句は言えんだろう」




 ほんの少し力を取り戻した自分の身体に触れ、口が弧を描く。




「あの勇者を鎮めるために、収集者たるあの男を潰したのはやはり惜しかったな。くくく、やはり念のため準備はしておくものだな」



 

 

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