業の蔵17
年末でバタバタしており、更新が遅く申し訳ありません。
時間は少し前に戻る。
「い、勇実さん!? その恰好は……!」
ボロボロの服を着た俺を見て空さんは驚いた様子だった。まあそうだよな。何も知らない人が見たら服だけ破れた格好で歩いているんだ。どこぞの悪漢にでも襲われたのかと思ってしまうよ。……俺男だけど。
「え、ええ。実は少々面倒な事が……」
そうして先ほどの出来事を説明した。徘徊し始めた生徒がいた事、触れた瞬間別空間へ移動し、ゲームみたいな戦闘に巻き込まれた事。そこで攻撃を喰らい、服がズタズタになった事。
「ゲームですか。聞いた印象では霊界領域と似た雰囲気を感じますね」
「ええ。俺も同じ印象です。ただ、あの校内がそうなっているんじゃないみたいですね。あくまで動いている生徒に触れたらというのがトリガーのようです」
「……ますます意味がわからない。それでこれからどうします?」
「無論救助を続けます。段々起き上がる生徒が増えてきている。恐らくですが放っておくと今倒れている人は全員起き上がるような気がします」
そう。俺が校舎を出る前に感じた印象だと今動いている生徒、教師なども含めたら既に100人を超えている。起き上がる前に連れ出す必要がある。ただ――。
「外へ連れ出して大丈夫か。という懸念がありますね」
「ええ。起き上がる前なら触れても大丈夫でした。ただもし外へ救助した人たちにも同様な現象が起きた場合、かなり厄介な事になります。あと……あれは?」
俺は少し離れた場所にいる人たちを見た。警察官とは違う私服姿の人が何人かいる。
「……ああ。警察が応援要請をして、その依頼を受けた霊能者の方々です。恐らく気を利かせて応援を呼んだのでしょうが、正直困っています」
確かに中に入れるか微妙だしずっと校門にいるだけだと確かに邪魔な気がする。
「……帰って貰うのは?」
「難しいですね。一応なし崩し的に現場責任者という形になっていますが、彼らは警察側から要請を受けた霊能者。恐らく警察側からも理解不能なこの状況下の中で何もしてないというのは体面的にまずいのでしょう。それとなく言ってみましたが、断られてしまいました。やはり未知の現象が起きているというのが厄介なようです」
ああなるほど。何故か現場である校内へ入れない。そしてその理由が誰にもわからないんだ。当然現場にいない人からすればこの状況は理解できないんだろう。
「そのため、1人責任者を決め、中には入らないようにと徹底し、必要か不明ですが外の巡回と警備をお願いしようと思っています」
「わかりました。では俺ももう一度中へ行きます。――あの着替えとかあります?」
「……用意させましょう」
「――――お願いします」
そうして俺はもう一度校内へ戻った。やはりというべきか。まるでゾンビのように徘徊している生徒たちが多い。そして共通しているのは、全員何故か出血している事だ。まさか血液で感染しているのか? そんな疑問を抱きながら俺は廊下を走った。こちらへ腕を伸ばしてくる生徒を避け、倒れている人がいないか探す。
「思ったより展開が早い。こりゃ不味いね」
既に視界の中に倒れている人はいない。魔力を展開して校内の様子を探るが、次々と倒れていた人たちが起き上がっている。
「仕方ない」
俺は窓ガラスを破壊し廊下から中庭へ飛び出す。そして空中を移動しながらさらに窓を破壊。ガラスが飛び散らないように消滅させつつ、3階で倒れていた人を担ぎ上げ、そのまま教室へ入り、また同じように窓を破壊し外へ飛び降りた。
「――まずいな。人が多くて段々動きにくくなってきた。一旦戻るしかないな」
地面に着地してそのまま校門まで走る。そして俺が救助した生徒を連れると空さんの横に見知らぬ男が立っていた。
「勇実さん。お疲れ様です」
「ありがとうございます。えっと……」
そういって俺は男の方を見る。すると空さんがうなずき紹介をしてくれた。
「はい。紹介しましょう。先ほどもお話していた応援に来てくださいました霊能者のお1人です。今回応援に来てくださった方の中で一番ランクの高い内田さんといいます」
「倉敷事務所所属の内田です。一応簡単な説明は伺いましたが、俄には信じられませんね」
「まあそうですよね」
「ですが、かの有名な勇実さんがこうして動いているのです。一応集まっている彼らは私の方でまとめてみます」
ああ。それは助かる。勝手に動かれて被害者が増えられちゃたまったもんじゃない。
「とりあえず俺はもう一度校内に行きます。恐らく次が最後です」
「わかりました。お気をつけて」
走りながら魔力をもう一度広げる。下手にコンとキィを出すのも不味そうだと考え今回は指輪の中へ戻し、走った。4階にあと3人。倒れている人がいる。場所はバラバラ。障害物がある中で3人も運んで移動は厳しいか。最短で移動するため地面から跳躍して一気に4階へ移動する。窓を破壊し廊下へ。そのまま止まらず壁を蹴り天井すれすれを移動して踊り場の端で倒れていた生徒を担ぎ、そのまま近くの窓を破壊する。そして外を経由してもう一度中へ。今度は教室のようだ。机に寝るように倒れている生徒を余った方の手で担ぎ、もう一度外へ戻る。
「――遅かったか」
最後の1人が起き上がる気配を感じた。ならこのままここへ居るのは危険だ。俺はそのまま一気に走り校門の方へ急いだ。
「この子達で最後です」
「お疲れ様です」
「す、すごい速さですね、勇実さんその子たちを寝かせてください」
内田さんからそう言われ俺は一旦地面におろした。すると内田さんが二人の生徒の額に手を当てている。
「何をされているんです?」
「はい、どうやら随分霊力が減っているようなので俺の霊力を分けているんです。さっきの子にも同じ処置をしました」
「霊力が減っている? 空さんは分かりましたか?」
「いえ、恥ずかしながら私も指摘されて初めて気づきました。さっきの子だけなのかと思ったのですが、この子たちもと考えると何かあるのかもしれないですね」
霊力が減っている? 減るような何かが起きているってことか。いやまさかあの出血か? くそ分からない事だけだ。
「勇実さん。すみませんが着いてきてほしいのです」
「は? え、どこへです」
「利奈ちゃんの所です。少々酷ですが、あの映像を見せてあの子が誰かを特定します。幸いあの映像で気づいた点があるんですよ、それは内履きの色です」
「内履きですか?」
「はい。この学校は内履きの色が学年ごとに違います。彼女は赤色の内履きでした。そして利奈ちゃんも同じ赤色の内履きを持っていたはず。つまり同学年の子の可能性が高い。であれば、あの映像から誰なのかわかるかもしれないです」
確かにそれなら可能性ある。でも――。
「ですが名前が分かった所で……」
「いえ違います。名前さえわかればその子の所持品を手に入れ、過去視を使う事が出来ます。どういう性格なのか、どういう趣味趣向の持ち主なのか、――何故あんな姿になったのか……そこから何か攻略のヒントを得られる可能性がある。この状況にあの映像の子がまったく絡んでいないとは考えにくい」
「だが危険じゃないですか。栞の件を考えれば……!」
「確かにリスクはあります。ですが、我々には何も情報がない。なさすぎる。その中であの映像の子が唯一の鍵なんです。だから――だから当主様も腹を括りました」
当主? おい、まさか。
「はい。今回の過去視は当主様が直々に行うと命を下しました。当弥さんなども止めましたが確実を期すためにも、老い先短く能力の高い自分がやると――、随分頑固になっているようです」
驚いたな。
「麻央さんは随分反対したみたいですが、自分の子供も同じ被害にあっているためか最終的には合意してます。沙織さんも同様です、当初自分がやると言っていましたが、当主様から強く反対されています」
確かに一人だけ異様な姿になっていたあの子の情報が手に入れば打開策が見えるかもしれない。
「今から病院へ行きましょう。既に当主様や警察の方々も同じ病院へ移動されているとの事です」
「まさかそこで?」
「はい。どうせそこならすぐ入院できるだろうとおっしゃっていました」
……それはまた、中々豪胆な人だね。




