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業の蔵13

 都内の病室。

 


「お姉ちゃんッ!!」



 利奈の叫ぶ声と共に個室の扉が開き、涙を流している利奈が駆け寄り、ベッドで寝ている栞の元へ駆けつけた。

 一見ただ眠っているようにしか見えない栞だがその姿は少々異様だった。まず身体と腕、足がそれぞれベルトで拘束されている。また周囲に赤い護符のようなものが部屋の四隅と、栞の額に張られている。



「あ、あの。当弥さん、お姉ちゃんは大丈夫なんですよね!?」

「落ち着いて。呼吸は安定しているし幸い篤君のお陰で怪我もない。眠っているような状態だね。意識だけが戻らない」

「このベルトやお札みたいなのは何ですか?」

「このベルトは保険だね。万が一また自傷行為を行った場合、確実に止めるための保険。このお札は……生須家の当主殿がわざわざ来てね。その時に気休めだといって置いていったんだ」



 当弥も噂程度には聞いていた生須家当主直伝の赤札。この正体は当主本人の血液を用いた護符であり、悪霊を強制的に吸い込む能力を持っているという。その護符を生須京志郎はわざわざ持ってきたのだ。まさかの名家当主自身がやってくるとは思わず当弥はかなり驚いた。


 

「この札が霊を吸収すると灰になるらしい。だからこれに触れれば栞君の目が覚めるかもしれないと言っていたけど、まだ目が覚めない。これを持ってきたあの方も力に成れず済まないと言っていた。……立派な方だよ」

「あの、京志郎さんは?」

「うん。あの学校には生須家の一族も通っていたらしいから何か対策がないか考えるって言って出ていったよ。そういえば勇実君は? 一緒じゃないの?」

「いえ、それが私を病院まで連れて行ってからまた外へ行ってしまって」



 そういうと利奈は首から下げていた指輪を強く握る。



「そうか。でも案外すぐに――」




 当弥がそう言いかけた時、また病室の扉が開かれた。自然とその場にいた者の視線が集まり、そして息を呑んだ。




「待たせた。すまんアーデ頼むぞ」

「はい」



 入ってきたのは勇実礼土。そして見知らぬ金髪の美女だった。篤や利奈がアーデの容姿などに驚いている中、当弥は勇実の方を見て内心驚いていた。




(あれ程膨大だった霊力が見る影もない。やはり空の報告通り、学校内で随分消耗したという事かな。まずいね、恐らくこの事件。解決出来る可能性があるのは彼くらいだ。少し休ませるべきか? いやまだ学校内に生徒が多く残っている。もう少し踏ん張って貰うしかないか)




「やあ勇実君。彼女は?」

「えっとお久しぶりです。こっちは俺の仲間でアーデと言います。俺の知る限り治癒能力は最高峰の力を持っています」

「え、じゃあお姉ちゃん助かりますか!」



 顔を明るくさせた利奈だったが勇実は苦い顔で首をゆっくり横に振った。



「すまん。確実じゃない」

「ですがやれるだけやりましょう。彼女が助かれば他の生徒も助かる。そうでしょう?」

「ああ。俺も一度学校へ戻る。利奈はここにいてくれ。一応マサを預けているけど、病室の外に他の仲間を連れてきたから使ってくれ」



 そういうと利奈の頭を撫でる。少し顔を赤らめながら勇実の視線を追うとそこには病室の外で赤毛の美少女がこちらを見て手を振っていた。




(勇実さん。こんなに美人さんばっかり仲間にしてたんですか!?)


 内心、利奈の心は勇実の頼もしさと、見知らぬ美人が増えており複雑な心境だった。


 



「あと篤さんだったよね」

「な、なんだよ」



 勇実が篤の前へ行くと篤の手を取り頭を下げたのだ。これには当の本人である篤も驚愕した。




「ありがとう。君のお陰で栞は命拾いをしたと聞いた」

「べ、別にお前に礼を言われるようなことは……」

「そうかもしれないけど、それでもだ。本当に助かった、ありがとう」



 それだけを言うと勇実は病室を出ていき、篤は少し呆然としてしまった。




「それにしても、またすごい霊力を持った面子だね。それでアーデさんお願いしても?」

「はい」



 ゆっくりアーデが近づき、ベッドで寝ている栞の元へ行く。掛け布団を少しめくり鎖骨の辺りに手を置いた。すると淡い光がアーデの身体から発せられ神々しい姿へと変わる。周囲が驚きでアーデを見ている中、アーデ本人は額に汗をにじませていた。



(――何か身体の中に妙な力を感じます。でも何でしょうか、霊のような気配ではない。もっと別の何か)



 一息つくように手を離すと、次に栞の頭に触れた。全身に魔力をゆっくり流した際に感じた異物は頭に感じたためだ。頭に触れさらにゆっくり魔力を流す。ソレを追い出すように魔力を流し続けていると、栞の額に乗せられていた護符が灰になった。



「これは……アーデさん?」

「確証はありませんが、栞さんの脳に何か妙な力が入り込んでいました。それを私の力で押し出そうとしたのですが、恐らく京志郎さんの護符がそれを吸収してくれたのでしょう。少なくともこれで例の自傷行為をするようなことはなくなると思います。ただ――」

「いつ目が覚めるか分からない。そういう事かな?」

「はい。それに恐らくこの問題は栞さんだけではないでしょう」

「ええ。あの学校にいた生徒、教員など含めた数百名近い人がまだ取り残されている。正直手が足りない」



 そういって当弥は窓越しに学校のある方角を見る。異常は消えたはずの校舎。だが何かがあの場所で起きている。それを解決しなければ被害がどの程度でるか分からない。




「被害者の方々は病院へ搬送される予定でしょうか?」

「いえ被害者の数が多すぎます。私たちの家から役所に掛け合い、市営体育館などを確保する予定です。そこへ簡単ですが設備を設け彼らを迎える予定です。そこで相談ですが」

「ええ。私も同行します。ネム」



 アーデがそういうと廊下にいた赤毛の美少女が病室に入ってきた。



「どうしたの」

「移動します。貴方はここで利奈さんの護衛を」

「アーデの方はいいの? なーんか嫌な予感がするんだよね」

「……ふむ。ならケスカを呼んでおきましょうか」


 


 そんな様子を少し呆れ顔で見ていた篤は思わず近くにいた当弥にこぼした。



「護衛って……大丈夫なんすかね」

「それは平気でしょ。少なくともあの2人は篤君よりずいぶん強いみたいだよ。特にあの赤毛の子。彼女は特に強い。多分空以上だ」

「う、嘘でしょ」

「本当さ。もっと見た目だけじゃなくて全体を見られるようになるといいね」

「――はい」




 篤は少し考えベッドの近くにいた利奈の元へ行く。



「利奈ちゃん。ごめん暫く栞の傍にいてくれる?」

「え、は、はい。もちろんです」

「助かるよ。君がいればあの護衛も一緒に栞を守ってくれるだろうし。俺は現場に行くよ。少しでも救援の手伝いをしてくる」

 


 そういって一度栞の顔を見て、篤は病室を飛び出した。




 



 





 

「空さん何か手伝います!」

「おや、篤君ですか。病室はもういいので?」

「はい。利奈ちゃんがいますし、俺もじっとしてられないっていうか」



 星申学院高等学校の校門前に空と篤が横に並び校舎の方を見ている。篤は唇を噛みながら睨めつけるように校舎を見て拳を強く握っている。



「あの……あの人は?」

「勇実さんは救助活動のため既に校舎の中です。彼は校舎へ入れる唯一の人物ですからね。まったくこうも自分が無力だと思ったことはない」

「空さんもですか」

「ともかくこの周囲は既に封鎖しています。あとは救急車とバスが来る予定です」

「バスですか?」

「人数が人数ですからね。けが人は救急車へ。意識喪失状態だけであればバスへ乗せます。ああ、来ましたね」




 空の視線を向こう。両手で2人を担ぐ勇実と小さな狐と猿がそれぞれ人を担いでいる。



「怪我人だ。軽傷だが頭を打っているかもしれない。注意してくれ」

「わかりました」

「このまま怪我人を優先でいいのかな?」

「はい。多方から我が子を先にと言われていますが緊急事態です。無視しましょう。ああ、それと勇実さん。これを見てください」



 怪我人を下し、また校舎へ戻ろうとしていた勇実を空が呼び止める。



「なんです?」

「つい先ほど警察から回ってきました。校舎の様子をドローンカメラで撮影していたそうです。その時の映像です」




 そういってタブレットを渡す空は苦い顔をしている。それを見て勇実も少し覚悟してタブレットを受け取った。





「再生します」

「ええ」




 そして映し出された映像。






 それを見て勇実は目を見開いた。





 一見普通の校舎を上空から撮影しているだけだ。だが近づいた時。それが現れた。



 


 そこには――学校の校舎や、土地を覆うように生えた根。そしてその上に1つの巨大な蕾が生えている。





「これは――」



 すぐタブレットから視線を外し校舎を見る。だがそこにあるのは普通の校舎だ。




「校舎に肉眼では見えない植物があるようです。それがなぜかカメラであれば現れます。そしてもう少し再生します。ここです」




 周囲を旋回しているドローンが巨大な蕾を撮影している。そして屋上を映した時だ。






「――――人影?」

「はい。拡大した画像がこれです」

「これは――まさか」





 少し荒い一枚の画像。





 そこには……頭部を風船のように膨らませ、顔から血を流した女子生徒の姿があった。

 


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔力でも霊力でも無い力? もしかしたら神力ってヤツかな? [一言] 続きが気になるなあ
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