閲覧注意1
『みなさん、こんにちは! 山Gちゃんねるです。声の大きさはどうでしょうか? いやずっと動画投稿ばっかりだったのに初めての生放送だから緊張しちゃうな』
普段見ているVtuberが今日は放送が休みのため、適当に面白そうな配信をあさっていたら山Gというそこそこ有名な配信者のライブ配信をしているのを見つけた。
山G。基本スタイルは動画投稿であり、最近流行りのライブ放送系はあまりやっていない投稿者だ。登録者は60万人とかなり大物であり、数年前こそ、すごい勢いで登録者を伸ばしていた。
ただ近年ではその登録者数も伸び悩んでおり、動画の再生数も数年前に比べるとかなり落ちている。動画内容は様々で、商品系のレビュー動画などの基本はもちろん、ゲーム実況、そして夏などには肝試し動画など投稿している。
俺はこういったホラー動画などが好きであり、この人の肝試し動画は好きでよく見ていた。霊感が強いらしくよく奇妙な現象が起きていたのだ。
『えーっと、最初に言っておきます。今日は怖い話をしようかなって。あ、かなり怖いので閲覧は自己責任でお願いします。はは、よくある常套句ですね、一回言ってみたかったんだ』
随分ハードルを上げるな、とおやつのチョコを食べながら思った。でも期待できそうだ。そういった怪談話は割と多く、傑作ともいえる話はたくさんある。
『コメントでハードル上げすぎとか色々頂いてますね。まあ大丈夫です。結構怖いと思いますよ。では、さっそく始めましょうか』
同時接続数は約3000人。当然俺もその中の一人であり、ホラー好きとしてはぜひ聞いてみたいと思った。
「幽霊が現実になった今の世の中でどんな怪談が聞けるかな」
そう独り言を言うと、BGMが切り替わった。よくホラー朗読などが使っているよく聞くフリー楽曲のようだ。人によってBGMも賛否は分かれるが、俺個人としてはBGMがあると雰囲気が出るので結構好きだったりする。
『ちょうど数日前。僕は海外旅行に行ってました。いくつか動画を上げているから知っている人もいるんじゃないかと思います。今のご時世で海外に行くのは結構勇気が必要でしたが、そうですね。正直僕も色々悩んでいて、何かネタを探していたんです』
画面に映る山Gの顔が少し伏せられた。
『現地の霊能者を雇うという考えもあったんですが、それだとつまらないかなと思ったんです。ある程度スリルはあった方がいい。演技してもいいけど、僕はそういうのは下手くそだし、すぐバレる。多分それだと数字は取れない。だからガイドはなし、1人旅をしてきたんです』
どうやらかつて売れていた山Gもここ最近の低迷には悩んでいたようだ。確かに俺も最近は見なくなってたと考える。
『場所は先日の動画にも上げていた通り。中国の方面です。最近はスマホで翻訳してくれるので便利ですよね。そのまま僕は中国を約2週間ほど旅行をしていました。問題が起きたのは僕がとある部族の住む中国南西部へ足を運んだ時の事です』
伏せていた顔を上げて山Gはカメラに視線を向けた。
『詳しい場所は……一応伏せます。ただそこに住む彼らは本当に良い人たちでした。日本から来た僕を歓迎してくれたし、村に泊めてくれ、料理も振舞ってくれた。僕はそこに3日間滞在しました。ちょうどこの旅行で必要な動画を撮り終え、帰ろうとしていた時期でもあります』
山Gは両手の指をせわしなく動かしながらどこか緊張した様子で話を続ける。
『本当に……良い人達でした。その時のカメラも回しています。今からその時の動画を――一緒に見てみましょう』
どこか緊張した様子の山Gが手元を操作すると画面が切り替わる。そこはどこかの山中のようだ。周囲は木々と崖で覆われた場所。標高が高いのか空が近いように感じる。まだ風景しか映っていない。どうやら静止画のようだ。随分と暗くよく見ると何か祠のようなものもある。そんな画像が数枚画面に移り、次に切り替わった時、今度は動画に替わった。山Gの少し疲れた様子の声が聞こえる。
「え、いいんですか! ありがとうございます」
誰かにお礼を言っている。そうすると今度は歩き始めた。カメラが回り山Gの顔のアップになった。
「ラッキーです。この近くに村があるそうでそこで泊めて頂けることになりました。ちょうど道に迷っていたので助かったなぁ」
そういうとまたカメラが回る。岩肌の道を進んでいるようだ。
「この辺に住んでらっしゃるんですか?」
山Gがスマホに話しかけると翻訳され、別の言葉へ変わる。しばらくすると山Gのスマホから日本語が聞こえてきた。
「ああ。すぐそこだ」
今のやり取りに俺は少し違和感を覚えた。言葉にはできないが妙な違和感。それを考えているとすぐにその違和感に気づく。
「あそこだ」
またスマホから日本語が聞こえる。でも、そうだ。山Gと話している相手の声が聞こえないのだ。スマホの音声が聞こえるくらいだ。相手の声が聞こえてもおかしくはないはずなのに。
そしてくぎ付けになるように映像を凝視していると、いくつか建物が見え始めた。土壁で作られた少しひび割れた家。それが何軒も点在している。だが――。
「こんにちは。いきなりお邪魔してすみません。はは、歓迎してくれてます」
山Gは誰もいない廃墟のような建物を写しながらそう言った。おやつを食べていた手がとまる。身体をゾクゾクとした寒気が走り鳥肌が立った。
コメントでも俺と同じくこの異様さに気づいた人たちが次々にコメントを書き込んでいく。
そして画面が切り替わった。
「今からこの部族でよく食べるという食事を頂くことになりました。見てください、美味しそうでしょう」
そうして映し出されたものは――黒い泥だった。
既に夜も更けており、明かりは一切ない。月明りでかろうじて見えるソレは黒く、粘々と粘液のようなものが出ており、まるで団子のような形をしている。それを山Gは美味しそうに口へ運んだ。
「おー! おいしい。さっき聞いたんですがこの辺で捕れる野生動物の肉だそうです。日本じゃ中々食べられないですよ」
俺は乾いた口を開きながら呆然とそれを見ていた。やらせ、演技、そういった言葉が頭の中を駆け巡る。だが山Gのスマホから次々と日本語の音声が流れていく。
「さあ。これも食え。まだある。これも食べるんだ」
「食べて私たちを救ってくれ。そう、全部全部全部」
音声加工、合成、色々な可能性はあるし、それを指摘するコメントも増えてきた。だが本当にそうなのか? 画面には山Gしか映っていない。でもスマホから翻訳された声は聞こえる。
そして動画は停止しまた山Gの姿が映った。
『皆さんの言いたいことはわかります。最初にあんなことを言っていてなんだこれは。そう思われる人も多くいるでしょう。でもね……こんな感じの動画が3日分ッ! 十数GBもあるんだ! おかしいだろう! なんなんだ、僕は何を食べていたんだ? 僕は3日間もあそこで誰もいない廃墟で何をしてたんだよッ!!』
それは山Gが初めて見せる感情を吐露した姿だった。
『……これ見てください』
1枚の画像が表示される。それは赤い箱の中に黒い綺麗な石が置かれていた。
『これは僕があの部族の人たちからお土産だと言われ渡されたものです。貴重な石でぜひ受け取ってほしいと言われました。これはその時に撮影した画像です』
そういうとまた山Gを映すカメラへ切り替わる。そして山Gの手元には同じ赤い箱が置かれていた。ゆっくりと蓋を開ける。そこには……。
――綺麗な黒い石などではなく、赤黒く変色した繭のようなものだった。
『これに気づいたのはあの村から離れた後です。石だったはずのものが何かの繭に代わっていました。そして自分の撮った動画の異常性に気づき、中国でも有名な霊能者にあったんです』
どういう訳か画面の中に映されている繭から目が離せない。
『ですが会った瞬間、帰れと。激昂されました。そして色々な霊能者に会いようやく僕の状況を教えてくれる人と出会えました。その人が言うには……あの場所は1年前まで何の変哲もないとある部族の人たちが住んでいたそうです。そこは精霊信仰がある場所だそうで、その精霊を祀る聖地のような場所もあったと聞きます。ただ人が立ち寄ると食われてしまうという言い伝えもあり、禁地ともされていたという事です』
山Gはどこか表情が抜け落ちた様子で淡々と話している。俺がそれが不気味で仕方がなかった。
『それがどういう理由か、その部族は全員死んでしまったという事でした。原因は不明です。ただ遺体の損傷が激しく、発見した当時は既に腐り果てていたという事でした。そしてあの地はその周囲では呪われた山として地元民も近づかない場所になったという事です。もう皆さんも想像できると思います』
山Gはゆっくり笑みを浮かべながら言った。
『僕は現在――呪われています』
そういうと山Gはゆっくりと服を脱ぎだした。パーカーをゆっくりと脱ぐと薄手のシャツが見える。だがそれは……血で滲んでいた。
『見ての通りです。毎日何故か怪我をします。家にいても安全に過ごしていても必ずどこか怪我するんです。もうずっと苦しい思いをしている。毎日毎日ずっと怪我に怯えながら生活しているんです。耐えれないッ!! ――だから』
そういうと山Gはカメラの方へ視線を向けた。
『僕はその唯一話を聞いてくれた霊能者に助けを乞いました。そしてそこまで呪いに汚染された状態では手の施しようがないと言われ絶望したんです。ですが、違う方法を教えてくれました。それは呪いを消す方法ではなく、薄める方法です』
心臓の鼓動が強くなったのを感じた。鳥肌が止まらない。
『この呪いはあの山にある精霊の奉る土地を見る事が条件という事です。だから僕は、最初にその場所の写真を入れました。そしてあの無人の動画、今僕の呪いの大本となっているらしいこの箱。ここまで見た人であれば、例えネット越しであろうと呪いが拡散できるだろうと言われました。僕は最初に言いましたね。この閲覧は自己責任でお願いしますと。みなさんはそれを承知してみてくださった救世主です。ありがとう。本当にありがとう。みんなが見てくれたおかげできっと僕の呪いは薄まった。ありがとう。本当にありがとう』
そうして泣きながら笑う山Gの顔を映して配信は終了した。
『次のニュースです。ネットで人気配信者であった山Gこと、山下治郎さんが自宅で遺体となって発見されました。遺体の損傷が激しく、警察では事故と事件の両方で捜査を――』
新しいエピソードです。
GWも安定の仕事のため更新速度は変わらないと思いますが、どうぞ宜しくお願いいたします。




